消費税は弱者に厳しいというウソ 〜逆進性という勘違い〜:専門家のイロメガネ(8/8 ページ)
消費税は弱者に厳しい、逆進性があるという勘違いに基づく指摘は、結果的に複雑怪奇で史上最悪の軽減税率の導入にもつながった。しかし、消費税に限らず税金はどのように集めるか、そしてどのように使うか、負担と給付をセットで考える必要がある。そして、負担と給付の両面で発生する「二重の累進性」が高所得者には働く。これは消費税の逆進性を打ち消して余りあるほどに大きい。
逆進性の勘違いは既知の話
冒頭で、消費税には逆進性があるとSNSで絡んできた相手に「ググれ」と返答したと書いたが、これも実は意味がある。現在、逆進性で検索すると専門家やシンクタンクの記事が1ページ目に多数ヒットする。そしてこれらの多くが逆進性に疑問を投げかけるものだ。
筆者も消費税には逆進性という欠点があると聞いて、以前は「多少の疑問はなくもないが、多分正しいんだろう」と考えていた。しかし以下の逆進性に関するレポートを読んで考えを改めた。
『個々の制度に問題はあっても、全体として公平性が保たれていれば可とすべきではないだろうか。税や保険料という負担面だけではなく、給付面も含めた制度全体で、豊かな人は給付に比べて負担が大きく、そうでない人は給付に対して負担が小さくなっていれば十分だろう。消費税の逆進性だけをことさらに取り上げてこれを問題視するのは、結局非常に複雑な制度を作りだすだけに終わる恐れが大きい。
消費税の逆進性は大問題か? ニッセイ基礎研究所 経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー 櫨浩一 2012/05/15』
負担と給付を含めた制度全体で公平性が保たれていればいい……。
これは12年に書かれたかなり昔の記事だ。負担と給付はトータルで考えるべきと、繰り返し説明した話は、このレポートがベースになっている。
逆進性の勘違いについてはとっくの昔に指摘されているにもかかわらず、低所得者対策として軽減税率は高い支持率で導入された。そしていまだに逆進性が問題であるとトンチンカンな指摘がされる。
ググれば10秒で見つかるような情報を確認しない人が多数派である限り、今後も不利な政策が採用され続けるだろう。
※なお、逆進性は消費税単体で見た場合には「ある」という前提で執筆をしたが、逆進性に疑問を投げかけ、それどころか(所得税程ではないにせよ)消費税も「累進性」があると指摘する経済学者の論文もある事は念のため紹介しておく。「消費税は本当に逆進的か」大竹文雄 小原美紀 2005年12月
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
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