失敗続きの「地域活性化」に財務省がテコ入れ 他省庁との違いを示せるか:新連載・地域ビジネス、ここがカギ(4/4 ページ)
内閣府や総務省が成果を出せていない「地域活性化」に、財務省が力を入れ始めた。各地域の出先機関を通じて、スタートアップ企業の発掘や支援に乗り出している。財務省の取り組みは成果を挙げられるのか。これまでの施策との違いを解説する。
財務省が取り入れた「エコシステム」
一方、財務省の取り組みが評価できるのは、その底流に「エコシステム」という思想が流れている点だ。近年のビジネス界の流行語の一つでもあるが、局所最適に陥りがちな行政機構がこの考え方を取り入れるのは意外と珍しい。
エコシステムは、植物や動物が互いに捕食し合いながら成り立つ生態系のサイクルのように、流通や金融まで幅広い業種が互いに競争し、依存しながら一つの業界や生活圏を作り出している状況を示す。全体が最適化するように、バランスを整えることを重視する思想だ。
例えば、地方でスタートアップ企業を立ち上げようとしても、資金や規正などさまざまな障害が存在する。そこで、財務局が新興企業を支援することで、地域金融機関も資金を貸し出しやすくなる。さらに、最強官庁「財務省」の威光をうまく利用することで国交省や経産省などの出先機関とも調整を図り、規制緩和も適宜図る。他にも産官学など地域のあらゆる主体が相互に絡み合う中で調整を図り、スタートアップ企業を地域にとって必要な存在に育て上げるというもくろみだ。
実はこのプロジェクトは、省内の若手職員のアイデアから始まっている。長年取り組んできた各省庁の地域振興策が袋小路にはまる中、財務省からわき起こったプランが成功したら面白い。同省内でせっかくの動きを止めることがないよう願いつつ、大きな成果が出ることを期待している。
著者プロフィール
甲斐誠(かい・まこと)
1980年、東京都生まれ。現役の記者として、官公庁や地域活性化、文化芸術関連をテーマに取材、執筆を重ねている。中部・九州地方での勤務経験あり。
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