カネがなければ諦めろ? “身の丈”に合わせる英語民間試験導入は廃止すべき理由:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/5 ページ)
萩生田文科相の「身の丈」発言も問題視された、大学入試への英語民間試験導入が延期になった。家庭の経済力による機会の格差が、学力、そして“生きる力”に直結する日本社会で、今回の制度導入は貧困世帯の子どもの命をないがしろにするようなものだ。
身から出た錆(さび)といいますか、自爆とでもいいましょうか。
萩生田光一文部科学相の「身の丈に合わせてがんばって」発言が火種となり、大学入学共通テストへの英語民間試験導入が“やっと”、本当にやっと延期になりました。
内閣改造の記者会見で記者から突かれた際には、「問題があれば、制度を磨いて、国民、受験生の皆さんに納得いただける試験にブラッシュアップしたい」と体よくかわしていた萩生田大臣でしたが、テレビ出演で気持ちが少しだけ大きくなっていたようです。
10月24日のBSフジの番組で、萩生田大臣は英語民間試験の利用における不公平感について問われ、「それを言ったら『あいつ予備校通っていてずるいよな』というのと同じ」と反論。その上で「自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえれば」と、思わず本音をこぼしてしまったのです。
飲み屋のおじさんトークでもあるまいし、文科大臣たる人が「身の丈」とは、開いた口がふさがりません。日本国憲法や教育基本法を理解していないし、大学進学が経済格差を解消するという社会的意義もわかっちゃいない。
要するに「俺たちの言うことだまって聞いてりゃいいんだよ。貧乏人は大学なんか行く必要ないよ」ってことなのでしょう。
取りあえず延期となった民間試験導入は、当初から反対意見が相次いでいました。6月には中止を求める請願書を大学教授などが国会に提出。大学側からの反発も強く、東大、京大、名古屋大が「民間試験の成績だけでなく、高校による英語力の証明書でも認める」との見解を示し、東北大、北海道大、京都工芸繊維大は、2020年度は民間試験の成績を合否判定に使わないと明言していました。
8月に文科省が開設した、英語民間試験の情報をまとめたポータルサイトには「未定」という文字が目立つなど、準備不足が露呈。しかも、決まったプロセスが全く明かされてない一方で、試験料は最低でも3000円、高額なものでは2万8000円程度で、試験会場も都市部などに限られ、問題は山積みでした。民間試験を実施する各団体は、試験に対応する参考書・問題集販売などの収益が期待されますから、どうしたって「金を使わせたい!」という人たちの思惑がプンプンしていたのです。
つまるところ、一向に日本人の英語力を向上させることができない教育界のツケを親のカネにすり変えたという、許しがたい計画なのです。
関連記事
- 「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。 - 月13万円で生活できるか 賃金を上げられない日本企業が陥る悪循環
米フォードの創業者はかつて賃金を上げて生産性を高めた。現代の日本では、海外と比べて最低賃金は低いまま。普通の生活も困難な最低賃金レベルでの働き手は増えている。従業員が持つ「人の力」を最大限に活用するための賃金の適正化が急務だ。 - 繰り返される「のぞき見採用」 リクナビ問題に透ける新卒採用の“勘違い”
「リクナビ」の内定辞退率予測データを巡る問題が広がりを見せている。採用側のコミュニケーション能力が貧弱だと感じる事例が毎年のように繰り返されている。学生にとって「就職先を志願する」ことは重い。採用側の姿勢を見直すことが必要だ。 - “やりがい搾取”に疲弊 保育士を追い詰める「幼保無償化」の不幸
消費増税まであと1年。同時に「幼児教育・保育無償化」も始まる。しかし「保育士の7割が反対」という調査結果が示され、受け皿の不足と負担増加が懸念されている。このまま無償化するのは「保育士は灰になるまで働け!」と言っているのと同じなのではないか。 - 職場で見過ごされる“心の暴力” 教員暴行事件に見る、オトナ社会の異常さ
神戸市の小学校教師の問題が「いじめ事件」と報じられていることに違和感がある。これは暴行だ。このような大人の言動を見て子どもは育つ。子どものいじめ問題以前に、「パワハラ」という精神的暴力、“見て見ぬふり”の姿勢をどうにかしなければならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.