カネがなければ諦めろ? “身の丈”に合わせる英語民間試験導入は廃止すべき理由:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)
萩生田文科相の「身の丈」発言も問題視された、大学入試への英語民間試験導入が延期になった。家庭の経済力による機会の格差が、学力、そして“生きる力”に直結する日本社会で、今回の制度導入は貧困世帯の子どもの命をないがしろにするようなものだ。
「身の丈に合わせるしかない」制度は命をないがしろにする
一方、リソースの欠損は「目に見えない貧困」であり、それは「慢性的なストレッサー」です。
お金がない、知識がない、情報がない、サポートしてくれる人がいない、相談できる人がいない、気兼ねなく話せる人がいないなど、「カネ」の欠損状態がさまざまなその他のリソースを複合的に欠損させる。その現実は子どもの生きる力に大きく影響します。
2011〜13年に自殺した国公私立の小中高校、特別支援学校の児童生徒約500人について実態を調査したところ、経済的困難で将来を悲観した自殺が5%と、いじめの2%を上回っていることが明らかになりました(文科省調べ)。
つまり、極論を言えば「身の丈に合わせるしかない受験制度」は、貧困世帯の子どもの命をないがしろにするようなもの。延期などではなく廃止にすべきです。
そもそも問題は英語教育にあるのであって、英語試験にあるわけじゃない。どんなに試験を変えたところで問題は解決しません。ぜひとも「まともな考え方」を上級国民の方々にはもっていただきたいと心から願います。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)。2019年5月、新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)発売。
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