鈴木大地スポーツ庁長官を直撃――東京五輪後も障害者スポーツの火を絶やさぬために:連載「パラリンピックで日本が変わる」(3/3 ページ)
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が近づいてきた一方、パラスポーツに関しては組織力、経営力、競技の環境などで課題も多い。スポーツ庁の鈴木長官にインタビューし、東京2020成功のために必要なものや大会後のビジョンについて聞いた。
東京2020年後の、総合的なスポーツ大会の姿
1964年の東京パラリンピックは、障がいのある人のスポーツが日本で本格的に広まるきっかけを作った大会だった。翌年65年に現在の日本障がい者スポーツ協会ができ、現在の全国障がい者スポーツ大会の前身となる、全国身体障害者スポーツ大会が始まるなど、パラリンピックを契機に大きな変化が起きた。東京2020の後には、どのような変化を起こすことができるのか、その構想についても聞いた。
――東京2020の後に、「新たな変化を起こしたい」と考えていることはありますか。
鈴木長官: 私は数年前から、個人的に発言していることがあります。日本には総合的なスポーツ競技大会といえるものが4つある。その一つが国民体育大会です。23年からは国民スポーツ大会に名称を変更することが決まっています。健常者の大会は、他にシニア世代を対象とした日本スポーツマスターズがあります。
残りの2つが厚生労働省が主体でやってきた、全国障害者スポーツ大会とねんりんピック(全国健康福祉祭)です。これら4つの大会は基本的に都道府県別の対抗戦で、厚生労働省の2つの大会には、政令指定都市も単独チームで出ています。
私はこの4つの大会を総合的に点数化できないかと、前々から考えています。政令指定都市が単独で出ると、道府県が弱くなり、どうしても東京都が強くなるという課題がありますので、点数の計算方法などはまだまだ検討が必要です。
ただ現状を見てみると、国民体育大会と言っているわりには、一部の人たちだけの大会になっていますよね。そうではなくて、障がいのある人も含め、いろいろな人が一緒になった状態で、スポーツが最も強い都道府県を決める指標を作れないかと思っています。
さらに言えば、せっかく2回目のパラリンピックを日本が開催しますので、障がいのあるなしに関わらず、誰でもスポーツができる環境を整えることが、国の仕事だと考えています。これはもちろん、スポーツ基本法にも明記されています。この点をしっかりやっていきたいですね。
――それは東京2020年大会を通して、世の中にイノベーションを起こすことにもつながりますか。
鈴木長官: その通りですね。国連ではSDGs、30年に向けた持続的な開発目標を採択しています。スポーツ庁ではSDGsの達成に向けて、スポーツを通じて社会課題の解決に取り組む考えです。これは世界的な潮流でもあります。
取り組みによって、スポーツが発するメッセージが、例えば外交に関しても、障がいのある人の生活の改善に関しても、いいイメージを伝えられるのではないかと期待しています。そのためにも、東京2020大会を、オリンピック・パラリンピックともに成功させたいです。
一過性の盛り上がりで終わらせないために
以上が鈴木長官へのインタビュー内容だ。東京2020大会まで1年を切ったことで、大会の準備と並行して、大会後の日本のスポーツのあるべき姿を考える時期にきていると感じた。
東京は、2回目のオリンピックを開催する都市であると同時に、世界で初めて2回目のパラリンピックの夏季大会を開催する都市でもある。一過性の盛り上がりだけで終わらないように、国の全ての機関と、競技団体、企業などが、残りの時間でどのようなビジョンを描くのかに注目したい。
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/
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