証券会社が取引所のシェアを奪う? 実は超競争業界の「証券取引所」:新連載・古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(1/3 ページ)
日本の株式取引では、日本取引所グループ傘下の東証一強といっても差し支えない。しかし決して安定しているとはいえない。それは、証券会社との競争と取引所間の競争が激化しているためだ。PTS、そしてダークプールのシェアはすでに1割にも達し、さらに海外ではデリバティブの得意な取引所が勢力を強めている。
金融業界を志す就活生や転職組で、知る人ぞ知る人気業界が、金融商品取引所といったマーケットインフラ業界だ。
株式などの取引所でいえば、日本取引所グループ傘下の東証一強といっても差し支えないのが日本の状況だ。金融商品取引所は参入障壁が極めて高いという事情もある。そのため、日本取引所グループは競争がなく、安定しているという見方をする者も少なからず存在する。
しかし、日本取引所グループも決して安定しているとはいえない。それは、証券会社との競争と取引所間の競争が激化しているためだ。まずは証券会社と東証のシェア争いについて見てみよう。
証券会社のPTS(私設取引所)が東証のシェアを削る
一見、金融商品取引所と証券会社は、プラットフォーマーと利用者のような関係性で、競争関係にないと思われるかもしれない。しかし、近年では証券会社が独自で、取引所に近い性質を持つプラットフォームを展開し、東証とシェア争いが始まっている点に注意が必要だ。
比較的なじみが深い証券会社の取引所といえば、PTS(私設取引所)市場だろう。これは、1998年12月の証券取引法改正によって解禁された取引市場だ。これまでは取引所集中義務という原則があり、売買は東証に集中されていたが、PTSは、新たな取引市場形態として認められたものだ。
今年の8月には、信用取引も解禁されるなど、個人投資家にとってのPTSの利便性が非常に高まっている。PTSを運営するSBIグループのジャパンネクストが、19年10月に発表した月間の売買代金は2兆9546億円にのぼり、史上最高を更新した。
かつては野村系で、現在は米ファンドJCフラワーズが運営するPTS、チャイエックス・ジャパンの月間売買代金は1兆1707億円で、こちらも史上最高水準で推移している。両社の合計売買代金は実に4兆1343億円にもなる。これは、東証の19年10月における合計売買代金61兆6640億円に対し、約6.7%のシェアとなり、決して無視できないレベルの台頭ぶりといえるだろう。
20年には楽天証券・マネックス証券が、PTS取引に信用取引を導入する見通しだ。カブドットコム証券も時期は明らかにしていないものの、PTS取引における信用取引の導入を検討している。PTS取引では、売買時間などが日本取引所グループの取り決めにとらわれない。そのため、夜間取引や取引手数料の低下という観点で、個人投資家にとってのメリットも多く、シェアを高めている状況だ。
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