証券会社が取引所のシェアを奪う? 実は超競争業界の「証券取引所」:新連載・古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(2/3 ページ)
日本の株式取引では、日本取引所グループ傘下の東証一強といっても差し支えない。しかし決して安定しているとはいえない。それは、証券会社との競争と取引所間の競争が激化しているためだ。PTS、そしてダークプールのシェアはすでに1割にも達し、さらに海外ではデリバティブの得意な取引所が勢力を強めている。
機関投資家のダークプール利用も増加
東証と証券会社の売買シェア争いは、個人投資家との関係だけでなく、機関投資家との関係にもある。機関投資家に利用されているのは、主に証券会社が運営するダークプールだ。日本におけるダークプールは、PTS取引とはまた別の市場として規制されており、私たちが思い描く通常の取引とは大きく異なる性質を持つ。
まず、ダークプールの名前の由来でもあり、最大の特徴として挙げられるのが、「気配情報や板情報が非公表になっている」ということだ。つまり、どの価格にどれだけの注文が入っているかは実際に注文を出してみないと分からない。これだけをみると、意図した価格・数量で取引できないというデメリットがハイライトされやすいが、機関投資家にとってこれはむしろ都合がいい。
一般に、機関投資家が売買する株式の金額は、10億円〜数百億円にものぼることがある。仮に、この取引を東証といった取引情報が公開される市場で売買すれば、機関投資家にとって不都合な点がある。それは、意図した価格で一定の数量を買い付ける前に、ほかの市場参加者に取引意図を察知されてしまうことだ。
流動性にもよるが、十億円〜数百億円単位の売買をさばくには数日以上かかる場合もある。その間に、ほかの投資家に取引の意図がばれてしまうことがあるのだ。ほかの市場参加者は、機関投資家の安定した買いを後ろ盾として積極的に買いに転じ、予定した株数を調達する前に株価を大きく上昇させてしまう。買いの場合はまだ取引を中断するという選択肢があるが、売り切らなければならない場合はより大変だ。
ダークプールを利用すれば、市場にインパクトを与えることなく売買を執行することができる。いわば、機関投資家同士のマッチングともいえるサービスだ。なお、取引価格は東証を参照するため、市場価格の7%以上の差で約定することは原則としてない。場合によっては東証よりも有利な値段で売買が実施できる。
近年では、SBI証券のSBBO-XやFinatextグループのスマートプラス(4月の記事参照)のように、ダークプールを個人投資家にも開放する動きが活発だ。個人投資家にとっては、市場価格よりも有利な価格での約定が期待できる点でメリットがあり、機関投資家にとっては個人投資家の売買フローを匿名で吸収できる点にメリットがある。
※情報開示:※株式会社スマートプラスは、筆者がディレクターとして参画しているFinatextのグループ会社です。
ダークプールもPTS同様、証券会社が運営する市場だ。日本取引所グループのデータによれば、ダークプールのシェアは16年時点で5.6%に達しており、現在は個人投資家のフロー流入などもあってさらに増加していると予想される。PTSと合わせれば、最低でも1割以上の取引シェアが東証から奪われている形となる。
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