証券会社が取引所のシェアを奪う? 実は超競争業界の「証券取引所」:新連載・古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(3/3 ページ)
日本の株式取引では、日本取引所グループ傘下の東証一強といっても差し支えない。しかし決して安定しているとはいえない。それは、証券会社との競争と取引所間の競争が激化しているためだ。PTS、そしてダークプールのシェアはすでに1割にも達し、さらに海外ではデリバティブの得意な取引所が勢力を強めている。
最大の取引所はもはやNYSEではない
ところで、世界最大の取引所グループと言われればどこを思い浮かべるだろうか。ニューヨーク証券取引所(NYSE)だろうか。いや、世界最大の取引所グループは今やNYSEではない。
現在の世界最大の取引所グループはインターコンチネンタル取引所(以下、ICE)である。ICEは、かつての世界最大取引所グループであるNYSEユーロネクストを13年に買収し、世界最大の取引所グループとなった。
その背景には、取引所間の競争による売上高の低下やシステム負債の高まりがある。NYSEのような伝統的な市場は、「取引所からPTSやダークプール」「株式からデリバティブ」といった取引環境の変化に適応できず、利益率を悪化させる傾向があった。
買収前におけるNYSEユーロネクストの売上高は、08年時点で頭打ちし、デリバティブが得意なICEが13年に買収した。国際的な観点では、これまで有名でなかった取引所が、NYSEのような権威ある市場を買収して巨大化する事例もあるわけだ。
日本においても、政府による取引所の保護規制が徐々に緩和されている状況だ。NYSEユーロネクストの事例は決して対岸の火事とはいえない。そこで日本取引所グループは激しい競争を勝ち抜くために、システムの刷新やデータビジネスへの注力といった投資を実施している。ほかにも、海外企業の上場誘致やミャンマーのような発展途上国の取引環境整備といった国際的影響力を高める活動にも積極的だ。
実は超競争業界の取引所ビジネス。「安定を求める」という怠惰なモチベーションで転職、就職すれば早晩、後悔することになるだろう。反対に、高いモチベーションでビジネスを実行する姿勢がある者こそが、日本の取引所に求められているのではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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