トヨタやソニーも過去に失敗 異業種の証券会社設立、成功のカギとは?:古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(1/3 ページ)
昨今、異業種からの証券事業参入が相次いでいる。しかし実は、異業種の証券事業参入は90年代末から00年代半ばにかけて度々みられた現象で、当時の大半の新規事業者は撤退を余儀なくされた。証券会社さえ作れば成功するという想定では足りず、証券事業を通じて本業の付加価値増加を伴うサービスであることまで求められる。
昨今、異業種からの証券事業参入が相次いでいる。丸井グループが2018年に開始した「tsumiki証券」を皮切りに、今年はYahoo!ジャパンとの経営統合を発表したLINEの「LINE証券」や、クレディセゾンのように、さまざまな業種からの証券事業参入が盛んだ。
新規の証券事業に希望を見出す事業者が多い反面、既存プレーヤーであるSBIホールディングス(SBIHD)は、証券会社という自社のイメージを払拭しようとしている。その様子は先月末に行われた20年3月期第2四半期決算説明資料からも読み取れる。同社は「SBIホールディングスはもはや証券会社の範疇(はんちゅう)で捉えられるべきではない」と説明する。
手数料無料化の流れの中、証券業界の決算は厳しい
そもそもSBIHDのような会社が、「もはや証券会社ではない」という趣旨の主張をする背景には、やはり証券業界の厳しい市場環境があるだろう。
今期の証券各社の決算をみても、大手ネット証券各社は軒並み減益となった。SBI証券の純利益は前年比17%減の278億円で、楽天証券は56%減の30億円。対面系大手証券についても、大和証券が8%減の333億円、SMBC日興証券も41%減の164億円となった。対面大手証券3社で唯一増益となった野村證券も、19年3月期に1004億円もの赤字を出したばかりだ。
海外における株式の取引委託手数料無料化の動きが、国内にも広がりつつあることもネガティブ要因だ。米証券のチャールズ・シュワブは10月1日、株取引にかかる取引委託手数料の撤廃を発表し、市場関係者に激震が走った。手数料無料化による収益の悪化を嫌気して同社の株価は約13%下落したほか、米国におけるネット証券業にも売りが飛び火した。SBI証券はその流れに呼応するかのごとく、10月30日に「3年以内の国内現物・信用手数料無料化」を発表した。
仮にオンライン証券トップのSBI証券が取引手数料を無料化すれば、国内証券各社も、これまでのように委託手数料で稼ぐビジネスモデルからの転換を余儀なくされるだろう。実際にSBIHDは他事業の展開にも積極的で、利益の中でSBI証券が占める割合は29.6%まで低下しており、19年も最低比率を更新する見込みだ。
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