トヨタやソニーも過去に失敗 異業種の証券会社設立、成功のカギとは?:古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(2/3 ページ)
昨今、異業種からの証券事業参入が相次いでいる。しかし実は、異業種の証券事業参入は90年代末から00年代半ばにかけて度々みられた現象で、当時の大半の新規事業者は撤退を余儀なくされた。証券会社さえ作れば成功するという想定では足りず、証券事業を通じて本業の付加価値増加を伴うサービスであることまで求められる。
証券事業への異業種参入、実は失敗例も多い
実は、異業種の証券事業参入は1990年代末から00年代半ばにかけて度々みられた現象で、当時の大半の新規事業者は撤退を余儀なくされた。
旧証券取引法(現、金融商品取引法)の98年改正で、証券会社が免許制から登録制で設立できるという規制緩和が実施された。これに伴い、それまで対面営業がメインであった証券業界にITなどを強みとする異業種からの参入が相次いだ。
例えば、「SBI証券」は元々ソフトバンク資本であるし、「楽天証券」もその名の通り楽天による買収によって今の形となった。このような、いわゆるネット証券は、対面営業を省いた固定費の削減と安価な手数料、当時は目新しかったオンライン取引を競争力として参入し、既存事業者との差別化を図った。その結果、証券業界には「対面証券」と「ネット証券」という2つのカテゴリが生まれることなった。
その陰で、証券業界の特殊性によって異業種の強みを発揮できず、失敗したネット証券が多かったこともまた事実だ。
例えばソニーもその1つだ。ソニーといえばエレクトロニクスのみならず、金融分野でも非常に高い業績を上げている企業として有名だ。しかし、そんなソニーであっても、証券ビジネスを軌道に乗せることは難しかったようだ。ソニーバンク証券は07年に営業を開始したものの、世界金融危機やその後の薄商い相場によって営業赤字を出し、わずか5年でマネックスグループに買収された。
そのほかにも、00年に営業を開始したトヨタファイナンシャルサービス証券株式会社も失敗している。同社もソニーバンク証券と同様に、世界金融危機のあおりを受けて営業開始から10年であえなく撤退し、東海東京ファイナンシャルグループに吸収合併されることとなった。伊藤忠の伊藤忠キャピタル証券も、12年に日本証券業協会から脱退するなど、例を挙げればきりがない状態だ。
このように、金融ビジネスの中でも特に証券会社については、市場環境による不確実性の高さや、業界の特殊なシステムおよび規制がネックとなって失敗する可能性が高い。SBI証券や楽天証券といった成功例の背後には、数多くの大企業が撤退したという事実がある。生存者バイアスにとらわれて安易に参入すると、痛い目を見る可能性が高い業界なのだ。
関連記事
- 証券会社が取引所のシェアを奪う? 実は超競争業界の「証券取引所」
日本の株式取引では、日本取引所グループ傘下の東証一強といっても差し支えない。しかし決して安定しているとはいえない。それは、証券会社との競争と取引所間の競争が激化しているためだ。PTS、そしてダークプールのシェアはすでに1割にも達し、さらに海外ではデリバティブの得意な取引所が勢力を強めている。 - 資産運用“素人レベル”の地銀、SBI「25億出資」の勝算とは
地方銀行はもうダメだ――。まことしやかにささやかれている「地銀はもうダメ」論だが、どこがそれほどダメなのかを確認し、それでも地銀との提携を推進するSBIグループの狙いは何かを探っていきたい。 - 日本国債に“元本割れリスク”? 財務省は「元本割れなし」主張
財務省のページには、日本国債は「元本割れなし」。一方で販売する銀行のページには、「元本割れとなるリスクがある」。結局国債は元本割れするのかしないのか? - 政府の”キャッシュレス推進”ウラの狙い 改善したい“不名誉すぎる”実態とは?
消費税増税からまもなく1カ月を迎え、キャッシュレスへの関心の高まりが顕在化してきた。政府が”身銭を切って”までキャッシュレス決済を推進するのは、異例とも思われる措置だ。その背景を理解するには、巷(ちまた)で言及されているような「インバウンド需要」や「脱税防止」以外にも押さえておかなければならない重要なポイントがある。それは、アンチ・マネーロンダリングだ。 - クレカで株式購入 セゾンが業界初
「ポイント運用」を業界に先駆けて提供したクレディセゾンが、クレジットカードを使って株式を購入できる「セゾンポケット」を開始する。133社の株式を、1株単位で購入可能だ。プラットフォームには、スマートプラスが提供する「BaaS」を使い、低コストでスピーディなサービス開始を可能にした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.