トヨタやソニーも過去に失敗 異業種の証券会社設立、成功のカギとは?:古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(3/3 ページ)
昨今、異業種からの証券事業参入が相次いでいる。しかし実は、異業種の証券事業参入は90年代末から00年代半ばにかけて度々みられた現象で、当時の大半の新規事業者は撤退を余儀なくされた。証券会社さえ作れば成功するという想定では足りず、証券事業を通じて本業の付加価値増加を伴うサービスであることまで求められる。
証券会社を作らずに証券サービスを提供する例も
では、tsumiki証券やLINE証券の勝算はどこにあるのだろうか。この論点になると、どうしてもクレジットカードで投資信託の積立投資ができることや、数百円から始められるといった機能・サービス面に目が行きがちである。
しかし、機能やサービスの枠組みは、それ自体によほど特殊性がない限り、模倣や追従が容易である。そのため、純粋なビジネス要件だけでは、既存の証券会社や将来参入し得る企業に対して優位性を確保するには不十分だ。これではオンライン取引に勝機を見出した異業種企業が、証券業へ相次いで参入した00年代と同じ様相となりかねない。
異業種からの証券サービス参入にあたっては、むしろ本業を十分に理解する必要がある。つまり、証券会社さえ作れば成功するという想定では足りず、証券事業を通じて本業の付加価値増加を伴うサービスであることまで求められるだろう。これは、SBIHDが証券事業一本から、他事業へ収益の柱を模索している流れと逆であると考えれば腑(ふ)に落ちるかもしれない。
tsumiki証券が、利用可能クレジットカードを丸井グループのEPOSカードに限っているのも、証券サービスの登録と合わせてクレジット発行枚数を増加させ、日常使いやローンビジネスの足がかりとする狙いがあるとみられる。LINE証券は、LINEが推進する決済や保険といった、金融関連サービスをワンストップでユーザーに使ってもらうことで、全体として利益を上げるという戦略に勝機を見出している。
また、新たな試みとしては、クレディセゾンのように、証券会社を設立せずに証券事業に参入するパターンもある。それが、クレディセゾンが11月12日にサービスを開始した「セゾンポケット」の例だ。この仕組みを用いると、クレディセゾンは証券会社ではなく、金融仲介事業者となる。実際に証券会社としてサービスを運営するのは、スマートプラスという証券会社だ。
同社の説明によれば、金融仲介事業者のスキームを用いることで、証券会社を設立する場合と比較して8〜9割の費用削減が期待できるようだ。初期の開発費を抑えれば、比較的気軽に証券サービスを立ち上げ、撤退することが可能となり、巨額の資本を投じる前にリアルオプション的事業参入の検討が容易となるだろう。
※情報開示:株式会社スマートプラスは、筆者がディレクターとして参画しているFinatextのグループ会社です。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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