Slackも活用、「直接上場」がIPOよりも優れているワケ:古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(3/3 ページ)
近年、注目を集めている金融商品取引所への上場方法が「直接上場」という手法だ。世界的に一般的な手法である「IPO」と比較すると、直接上場は新株の発行(資金調達)を伴わない点で違いがある。直接上場のメリットはどのようなものがあるのだろうか。
ウォンテッドリーは直接上場すべきだった?
すでにIPOをした中にも、直接上場をした方が幸せだったのではないかと考えられる企業も散見される。例えばウォンテッドリーだ。ウォンテッドリーは17年9月にIPOを実施した、ビジネスSNSを提供するベンチャー企業だ。
当時のIPOに際し提出された「株式売出目論見書」の奇特さから、同社は上場前から市場参加者の注目を集めた。同社はIPOで調達した資金の資金使途を下記のようにつづったのである。
上記の手取概算額39000千円については、事業及び人員拡大に伴い平成30年8月期に実施する本社オフィス増床時の内装費の一部に充当する予定であります。(ウォンテッドリー株式会社 株式売出届出目論見書より抜粋)
上記の内容を一言でいえば、「IPOで調達する予定の3900万円は、オフィスの壁や床などを整備するために使う」というものだ。同社の想定時価総額は40億円程度(当時)で、調達額は時価総額の1%未満。ごく少額の資金調達であった。さらに、同社における当時の現金等残高は4億3653万円もあったため、内装のためのお金は調達しなくても手元にあったのだ。そこで、「内装費」という表現には何らかの”含み”があるという見方が強かった。
カギとなるのがウォンテッドリーの株主構成だ。同社の株主構成を上場当時と現在で比較すると、上場時に名を連ねていたエンジェル投資家の木村新司氏(持ち株比率3.26%、ストックオプション2.81%)や、日本経済新聞社(持ち株比率1.17%)が大株主から外れている。一方で、社長の仲氏の持ち株比率は68.98%から71.0%まで増加している。
ここから考えられるのは、ウォンテッドリーの上場を推し進めたのは仲暁子社長ではなく、外部の投資家であった可能性が高いということだ。IPOは新株の発行が必要となる。そのため、「内装費」という資金使途は、会社としては不本意な上場であったことを暗にアピールする狙いがあったのかもしれない。
仮に不本意な上場であったとすれば、直接上場を選択していた方が、金融機関にかかる手数料を圧縮でき、議決権の散逸も最小限度に抑えられたのではないかと考えられる。
マザーズ市場への導入には規則改正が必要
真意は測りかねるものの、たとえマクアケやウォンテッドリーのような新興企業がIPOを望んでいなかったとしても、IPOに頼らざるを得ないのが現状だ。日本取引所グループの規則によれば、マザーズ市場に株式を上場させるには、最低でも500株の公募を義務付ける規定がある。つまり、マザーズ市場では、現時点で直接上場という手法を取り得ない(なお東証1部といった、いわゆる本則市場では新株の公募が義務付けられていないため、直接上場は今の規制でも可能だ)。
スタートアップの資金調達方法が多様化するにつれて株主構成は複雑化する。複雑な株主構成は上場フェーズにおける既存株主とのトラブル増加を招くだろう。そのような状況下では、コストもかかり、必要ない資金調達で既存株主の持株が希薄化してしまうIPOよりも、船から降りたい人だけ低コストで降ろせる直接上場の環境整備が求められてくるのではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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