Slackも活用、「直接上場」がIPOよりも優れているワケ:古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(2/3 ページ)
近年、注目を集めている金融商品取引所への上場方法が「直接上場」という手法だ。世界的に一般的な手法である「IPO」と比較すると、直接上場は新株の発行(資金調達)を伴わない点で違いがある。直接上場のメリットはどのようなものがあるのだろうか。
そのような事情もあり、一般的にIPOを実施した企業の株価は、公募価格を超える可能性が高い。2019年は12月11日時点で71銘柄がIPOを実施したが、初値が公募割れとなったのはわずか10銘柄にとどまる。この事実を裏返すと、実に86%以上の会社で、同じ公募株数でもっと多くの資金が調達できたということ。資金調達の点では、非効率であったとみることができるだろう。
直接上場では、公募価格の代わりに「参考価格」を用いる。これは直近の資金調達例などから初値の参考となる価格だ。公募価格と違って、上場企業や個人投資家にとって中立な指標だ。仮に初値が参考価格と異なっても、参考価格は、「公募株式に対する公募価格」といったコミットがないため、上場企業と個人投資家の利害が対立しない。
19年6月にNYSE(米ニューヨーク証券取引所)に直接上場したSlackは、参考価格を50%上回る38.5ドルで寄り付き、約2兆円の時価総額となった。これが仮にIPOで10%の新株の公募を実施していた場合、公募価格は参考価格と同程度の1.4兆円程度で見積もられたと考えられる。単純計算で1400億円程度しか調達できなかったことになるだろう。
上場したマクアケも、公募価格1550円に対する初値は2710円だった。公募株式による資金調達は98万株、15億円程度にとどまった。しかし初値ベースで考えると、27億円相当の株をたった15億円で放出したとみることもできる。
ここまで考えると、資金が潤沢な企業にとって、IPOは必須の選択とはいえないだろう。また資金がそれほど潤沢でない企業でも、直接上場によっていったんは市場のバリュエーションを確認し、そのバリュエーションを元に株式の公募(PO)を行った方が効率的ではないだろうか。IPOの引受手数料の相場は7%程度だが、一般的な上場株式の公募(PO)例から考えると、その手数料はIPOの半分程度に抑えられるはずだ。
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