なぜ「ビーフン」に成長の余地があるのか 最大手「ケンミン食品」が狙う空白市場:長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/5 ページ)
ビーフン最大手のケンミン食品。2016年には年間約1000万食だった売り上げは、17年以降は約1500万食へと1.5倍に増えた。どのような成長戦略を描いているのか。
1950年に創業
ケンミン食品は、台湾随一のグルメの街として知られる台南市郊外出身の故・高村健民氏が創業した。戦後の混乱期から日本が復興してきた1950年に、神戸で健民商会を立ち上げ、製麺所を建設したのが始まりだ。中国からの引揚者たちからの「もう一度本物のビーフンを食べたい」という声に後押しされた。
ケンミン食品の“ケンミン”は、創業者の名前“高村健民”に由来する。製麺所といっても、自宅の10畳の土間にて、生のビーフンを手づくりして、神戸の中華料理店に売っていた。業務拡大につき、56年には兵庫県内に上郡船坂工場を開設している(現在は兵庫県丹波篠山市に移転)。
中国では、ビーフンはラーメンやうどんのように汁に入れて食べるのが主流だが、高村氏は日本人の味覚には焼ビーフンのほうが合うと考え、焼ビーフンの普及を視野に入れた販売を行った。
ちなみに台湾出身の日清食品創業者・安藤百福氏が世界初の即席ラーメン「チキンラーメン」を発売したのは1958年。その2年後の60年には、味付きの即席「ケンミン焼ビーフン」を発売している。ビーフンは油で揚げるとパフ化(膨化)してしまうので、ラーメンのような瞬間油熱乾燥法を採用できず、最初からノンフライによる熱風乾燥法を確立した。
ケンミン食品では既に米100%の乾麺「ケンミンビーフン」を発売していたが、お湯で戻してから水で冷やさなければならない面倒さがあったのだ。ところが新しい「ケンミン焼ビーフン」は、有り合わせの野菜と豚肉と炒め用の油があれば、フライパンに水を190cc注いで蓋をして3分間強火で加熱するだけで、簡単に出来上がる。
当時の日本には約100社のビーフンメーカーが乱立していたが、淘汰されたり、即席ラーメンの製造などに転換していったりした。
このように、簡便に調理できる「ケンミン焼ビーフン」の発売により、ビーフンは中国から帰還した人も多かった九州や本社のある関西などを含む西日本でなじみのある食品となった。しかし、中京や北陸以東ではあまり浸透しておらず、春雨や葛きりと混同する人も未だ多い。
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