なぜ「ビーフン」に成長の余地があるのか 最大手「ケンミン食品」が狙う空白市場:長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/5 ページ)
ビーフン最大手のケンミン食品。2016年には年間約1000万食だった売り上げは、17年以降は約1500万食へと1.5倍に増えた。どのような成長戦略を描いているのか。
使用する米がポイント
戦後にラーメンやギョーザが普及したのも、中国からの引揚者たちが現地で食べた中華料理の味を忘れられず、もう一度食べたいというニーズがあったからだ。そして、町中華や屋台で提供が始まった。
中国北部は小麦を主食とする食文化で、中国南部は米を主食とする食文化。小麦を原料とするラーメンやギョーザのほうが、国民食といわれるほど浸透したのはなぜか。米国が食糧支援した小麦に対して、米は増産されてきたものの配給制が残って高価だったのも関係していたのかもしれない。
後に首相を務めた池田勇人大蔵大臣(当時)が、米価の高騰をただす質問に対して、「貧乏人は麦を食え」と言い放ったのは、50年暮れの参議院予算委員会の答弁であった。
「チキンラーメン」の創業当時の値段は35円。「ケンミン焼ビーフン」も35円くらいだったそうで、あまり価格差はなかったようである。
それだけではなく、日本では伝統的に米を麺にするという発想がなかった。日本人にとって麺の原料というと、うどん、そうめんなどの小麦粉か、日本そばのそば粉であった。
ビーフンは漢字では「米粉」と書くが、日本で栽培されるジャポニカ米は水分が多く、砕いて米粉にするのには適していない。対して、インディカ米はパサパサとしていて粘り気が少なく、ビーフンには適している。
つまり、新潟や秋田といった東日本の米どころで採れた良質の米が、ビーフンには不向きだったので製品化できなかった。
高村氏はさまざまな米を使ってビーフンをつくってみた。その結果、インディカ米の中でもタイで生産される米が最も良質な製品ができると確信。遺伝子組み換えを国策として行っていない、安全かつ安心なタイの米を原料として使用している。約230項目もの残留農薬の一斉分析を実施し、基準値以下の産地で、時期を指定して購入する。
ところが80年代には国内の米余りもあって、政府が米価の値崩れを防ぐため禁輸に転じた。そのため、タイ米の確保が困難になり、87年にはタイに工場を建設している。経費削減ではなく、良質な原料確保を目的としたものだ。2000年には主力の即席焼ビーフンの生産をタイ工場に移管。現在では、生協向けの調理済み冷凍食品を篠山工場と子会社フジケンミンフーズ(静岡県藤枝市)で生産する以外は、タイ工場で生産し輸入している。
ビーフンは繊細な商品で完全機械化ができない。1本1本の麺がくっつかないように手作業で工員が広げて乾かすなど、手間がかかっている。
ケンミン食品が実施した「地域別個人消費指数2018」という調査がある。自社ビーフンの販売額の全国平均を100とした場合、地域別の家庭用商品支出額を比較すると、九州167%、中国・四国141%、近畿111%、東海70%、北陸65%、甲信越29%、関東95%、東北62%、北海道70%となっており、典型的な西高東低となっている。ただし、関東は全国平均に既にかなり近く、西日本出身者を中心に普及してきている。人口が集中する首都圏は、ビーフンにとって販路拡大の有望な市場といえるだろう。
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