同一労働同一賃金が招く“ディストピア”とは?――「だらだら残業」だけではない、いくつもの落とし穴:短時間勤務者には痛手?(5/5 ページ)
2020年から開始する「同一労働同一賃金」。期待を集める一方で、「だらだら残業」を助長したり、短時間で働く人の負担になったりと、さまざまな「落とし穴」も潜んでいるという。しゅふJOB総研所長を務め、労働問題に詳しい川上敬太郎氏が斬る
「同一労働」と「同一成果」のハイブリッド方式も
しかしながら、同一成果同一賃金の導入は、同一労働同一賃金以上に難しい面があります。例えば「何をもって同じ成果と見なすか」は課題です。同一労働同一賃金においても、何をもって同じ職務と見なすかが難しいのと同様です。成果を明確に定めて比較するためには、誰もが分かるように「いつまでに」「何を」「どのレベルで」仕上げなければならないかを確定する必要があるでしょう。
また、かつて成果主義と呼ばれる評価制度が話題になったものの、機能しなかった苦い過去もあります。さらに、成果だけでドライに給与を決めてしまうと、プロスポーツ選手や芸能人のように、収入の浮き沈みが激しく働く人の生活が不安定になってしまう懸念もあります。
それでも、同一成果同一賃金の考え方を目線の先に置いておくことで、同一労働同一賃金だけでは解消できない課題を克服しようとする道標(みちしるべ)にすることができます。
例えば、生活のための最低保証として同一労働同一賃金をベースとした上で、早退、欠勤時の補填(ほてん)やプラスアルファとしての評価に同一成果同一賃金の考え方を導入するような、ハイブリッド方式も考えられます。
「成果」への投資が最も確実
このようなことをすると「人件費が増えてしまうじゃないか!」と思う人もいるでしょう。しかし、増えるとしたら「成果を出した分」の人件費です。会社と従業員との間で、出してほしい成果の内容をしっかりと合意できていれば、その人件費は成果が出た後に支払われるわけですから、むしろ外れのない確実な投資だと言えます。
もし同一成果同一賃金の考え方を上手に導入することができれば、働く側にとっても雇う側にとっても、大いにメリットがあるのではないでしょうか。働き方改革が進められていますが、同一労働同一賃金をその最終ゴールと見なしてしまうことには違和感があります。雇用労働分野におけるより多くの課題を解決するためには、その先に、同一成果同一賃金を見据えて改革を進める必要があると考えます。
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