自覚がないまま、「昭和なマネジメント」で社員を苦しめていた――地方都市の社長が「働き方改革の失敗」に気付くまで:働き方改革を阻む「抵抗」「不安」「失敗」との戦い方(3/3 ページ)
新しい働き方の会社を作ったはずなのに、自覚がないまま「昭和なマネジメント」をしていた――。なぜ、こんなことが起こってしまったのか。
「外の世界」に触れて気付いた「失敗の原因」
沢渡: そこで学び直しを始めたのですね。
小川: そうですね。ちょうどそのころ、社会人教育で知られるグロービスが浜松で体験会を実施すると聞いて、「ここにヒントがあるかもしれない」と思って参加してみたんです。さまざまな業種、役職の人と一緒に受けた体験クラスで刺激を受け、わらにもすがる思いで名古屋校に通うことに決めました。何か活路があるかもしれないし、そこで学んだことが自己成長につながれば、きっと道は開ける――と思ったんです。
最初に受けたクリティカルシンキングのクラスには、大企業から中小企業まで、さまざまなバックグラウンドの人が来ていました。驚いたのは、外から見れば順風満帆に見える「大企業の立派な名刺を持っている方々」も、悩んだり、自分探しをしたりしていることでした。
クラスの仲間とは経営学を学ぶだけではなく、「一人の人間としてどう成長していくか」について、肩書も年齢・性別も企業規模も関係なく、時には涙を流しながら、「自分は何を大切にしているのか」「自分はどんな風に成長していきたい」「自分にはまだ、ここが足りていない」といったことをディスカッションするわけです。
そのときに気付いたのが、新卒で入った会社で違和感を覚えていた「閉じた世界」を、「自分の会社で自分が作ってしまっていたのではないか」ということだったのです。しらずしらずのうちに、自分自身の考え方が閉じてしまっていて、「昭和なやり方」に縛られていたんですね。
社内に、“20世紀型マネジメントの代表”ともいえる組織のピラミッドをつくり、PDCAを「気合、根性、努力」でまわして、とにかく「ロジック」でものごとを考える――。そこには「楽しい」とか「ワクワクする」みたいな気持ちは全くなかった。
「新しいことをやろう」という気持ちはあったものの、それを「ロジックで考えて生み出す」という発想に陥っていたんですね。たぶんそれは間違っているし、「そうやれば正解が出てくる」という考えにとらわれすぎていたんです。
グロービスに通い始めて、とても大きな刺激を受けたのが、和田中学の校長を務めていた藤原和博先生のこんなエピソードでした。
複雑化した社会では、正解は1つではない。だから、試行錯誤をする中で納得できる解を探せる人材になることが求められる。そんな人材になるためには、自身の知識や技術、経験だけでなく、他人のそれも総動員してアイデアを出して行動し、うまくいかなければ、随時修正しながら「納得解」に近づくアプローチが必要。そのアプローチをするために最も重要な能力が「つなぐ力」である――。
この藤原先生の話を聞いたときに、「会社を運営する上でうまくいかなくて、もやもやしていたこと」が、きれいに言語化されたんです。今まで僕は、正解があると思って必死に探していたけれど、そうじゃない。正解などなくなっている世界では、社員同士がディスカッションしながら納得する解を見つけていくことが重要なんだ、と気付いたんです。
つまり僕は、20世紀型の教育を受けて、大企業で正解探しをしてきて、それがこびりついたまま起業していたんですね。会社がうまくいかなくなって初めて、昭和なマネジメントをしていたことに気がついたんです。
沢渡: その気付きは重要ですね。今の世の中は正解がなく、企業のトップも正解を持っていません。それだけ専門化も多様化もグローバル化も進んでいるので、「いかにコラボレーションするか」が重要になるんです。
社員同士でのコラボレーションはもちろん、小川さんがグロービスの生徒たちとしたように、「同じ悩みを持つ“外の人”と話す」ことで自分の中の悩みを言語化したり、つながったりして解決策を見つけていく――。こうしたコラボレーションの邪魔をするものが、「仕事ごっこ」なんです。
先般、ある大手製造業の調達マネジャーが、こんな話をしていました。「今の時代は、自分たちでドリルダウンして正解を探したり、自分たちのスキルを深掘りして身につけたりするより、いかに自分たちの悩みや課題を素早くオープンにして、同じ課題を持つ人同士がつながってコラボレーションして、解決に向けて動いていけるかが重要」だと。
そのためには、「悩みごと」や「もやもや」をオープンにする経営スタイルにシフトできるかどうかが重要なのかもしれません。
【中編に続く】
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