“よそもの”の力で熊本は変われるか 衰退する「地方路線バス」会社の挑戦:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
2019年秋、熊本に新たな商業施設「サクラマチクマモト」が登場した。バスターミナルを中心とした再開発であり、主体となったのは九州産業交通ホールディングス。クルマ社会により地方のバス会社は苦戦を強いられているが、どのような狙いがあるのか。経営支援を受けているエイチ・アイ・エスと一体となり、新たな地方創生のモデルとなれるか――小売・流通アナリストの中井彰人氏が鋭く切り込む。
公共交通機関を無料にする実証実験も
ただ、大規模とはいえ、1つの施設に住民の動線を変えてしまうほどの力がないことは運営者も十分理解しているだろう。幸いにして、この施設に隣接する熊本中心市街地は、昔ほどではないにせよ、地方都市としては有数の吸引力を保っている。
また、九州新幹線が通っている熊本駅にはJR九州の駅商業施設「アミュプラザ」も開業準備中で、商業店舗面積が3万7000平方メートルの“大箱”が21年春にはオープンするという。過当競争を引き起こすのではといった声もあるようだが、中心市街地全体としては来街の目的が増えるということで、その吸引力はさらに増すことになるだろう。こうした地区間はバスや路面電車で容易に行き来できるため、相乗効果を生み出すことも可能だ。そうなれば、九州産交HDの第1次目的である「熊本中心市街地に人を呼び込む理由作り」は、十分に実現できるだろう。
ただ、九州産交HDのもくろみは、人通りの創出にとどまるものではないようだ。サクラマチクマモトのグランドオープン日である9月14日、熊本県内全域の公共交通は終日無料となった。これはただ無料にしたのではなく、産学官連携の「SAKURA MACHI DATA Project」という実証実験だった。
九州産交HD、ヤフー、トラフィックブレイン、熊本市、熊本大学が連携して、公共交通の無料化が社会にどのような影響を与えるのかを実証するというものだ。九州産交のプレスリリースによれば、「同日に収集するデータは、基準日(実施日と同曜日の前後応当日)と比較し、公共交通利用の促進、中心市街地の『賑わい』創出、県内の移動活発化などの視点で、人流・乗換検索・検索ワード(興味関心)などのデータを用いて、産・官・学のさまざまな視点から分析方法を検証していく計画」とされている。
毎月1000円負担で県内の路線バスが無料に?
その後、発表されている中間報告もその内容が面白い。19年10月31日に発表した報告の趣旨は、公共交通を無料化した影響として、街全体では前週同期比で2.5倍の人出があり、さらには公共交通を利用したことで市街地周辺の交通渋滞が4割減少した、というものだ。
19年11月20日に発表した第2弾報告では、中心市街地での飲食などへの支出総額が増加し、5億円程度の経済効果があった、ということも発表した。公共交通を無料化すれば、総合的な経済効果や渋滞緩和といった大きなメリットがあるということを訴えるという内容となっている。
こうした九州産交の取り組みは、公共交通の無料化という斬新な提案を、実証実験によって効果検証していくという画期的な手法で、世に問うものでもある。この中間報告と同じころ、「熊本県民が世帯あたり月間1000円を負担すれば、県内の路線バスを通年無料化することも計算上は可能である」という一部報道も見かけたが、まさにこうした発想も、地方の公共交通においては選択肢の1つなのかもしれない。
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