“よそもの”の力で熊本は変われるか 衰退する「地方路線バス」会社の挑戦:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
2019年秋、熊本に新たな商業施設「サクラマチクマモト」が登場した。バスターミナルを中心とした再開発であり、主体となったのは九州産業交通ホールディングス。クルマ社会により地方のバス会社は苦戦を強いられているが、どのような狙いがあるのか。経営支援を受けているエイチ・アイ・エスと一体となり、新たな地方創生のモデルとなれるか――小売・流通アナリストの中井彰人氏が鋭く切り込む。
「よそもの」が地方を変えられるか
もともと、公共交通があまり充実していないことが原因で、地方では自動車、特に軽自動車が普及し、1人1台と言っていいほどのクルマ社会が形成されている。自動車があれば生活には困らないため、公共交通の存在感が大きい大都市圏とは異なり、住宅地の場所も公共交通に沿って立地しているわけでもない。地方都市は、クルマ社会になったことで、公共交通の周辺に密集して住んでいる大都市とは全く違う、希薄に広く拡散した住宅地が広がっているのが一般的だ。
一方で、郊外に拡散して住んでいる人たちが高齢化して運転できなくなっていったとき、公共交通網が崩壊してしまっていたら、その移動手段の確保は大きな問題となる。自動運転の普及が、公共交通の崩壊に追い付かなかったら、こうした問題の解決手段はなかなか見つからないかもしれない。そもそも、クルマ社会が便利だといっても、自動車の維持費やガソリン代を考えれば、地方生活者は公共交通と比べて、はるかに高いコスト負担を強いられている。
公共交通も事業として行わざるを得ないため、これまでは受益者負担と公的補助により運営していたが、利用者の減少と人件費高騰等が進む現状では、将来にわたって事業の継続性が担保されている地域は、ほとんどないだろう。それは、これまで「受益者とは、公共交通の利用者である」という認識が当たり前だったからなのだ、と九州産交の実証実験は言いたいのであろう。今回の実証実験が訴えているのは、公共交通の受益者とは、利用者だけではなく、中心市街地の商業者、飲食業者などのさまざまな経済効果の受益可能性がある関係者や交通渋滞緩和の受益者である住民など、「その地域の住民全て」であるということだ。さまざまな技術革新によって、こうした公共交通の真の受益者を検証することも可能になってきた。令和の公共交通の在り方は、データによる効果検証を通して、再定義されるかもしれない。
九州産交HDに話を戻せば、こうした斬新な取り組みを行っているのは恐らく、かつて経営破綻したことが背景にある。HISという、公共交通に関しては「新参者(かつ、地域から見て“よそもの”)」が、経営を主導しているという要因が大きいのであろう。地方創生には「若者、よそもの、馬鹿者」が必要とはよく聞くが、まさにその証明のような事例なのかもしれない。こうした「よそもの」の取り組みを地域社会が受け入れて前に進むかどうか。震災後、復興に向けて一丸となって進んでいる熊本なら、先進事例を作ることができるであろうと期待している。
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