ブラック企業大賞を2年連続で受賞した三菱電機 過労死を繰り返す「隠蔽」の構図を探る:なぜ、痛ましい事件が相次ぐのか(5/5 ページ)
19年夏に三菱電機で発生した社員の自殺。激しいパワハラが問題視されたが、同社のこうした事件はこれが初めてではなかった。なぜ、痛ましい事件が相次いでしまうのか。背景には、遺族の訴訟や申請を「コスト」と見なし、事実を隠蔽する姿勢が透けて見える。労働問題に詳しい今野晴貴氏が解説する。
実際にあったあくどい「コスト削減」方法
実際にあったケースで言えば、ある遺族がパワハラを理由に自死した子どもが生活していた社員寮に荷物を引き取りに行くと、営業車や生活していた部屋がきれいに掃除されており、PCのデータも全て消されていたという。
また、「サンセイ」という機械部品メーカーの岩手県にあった支社で11年に起こった過労死のケースでは、50歳代の男性社員が亡くなったのは長時間労働が理由ではなく、「本人の不摂生」が原因だと会社側が主張し、労災申請の手続きへの協力を拒否している。
この会社は、労災が認められた後の裁判でも、「食生活に問題があった」などと本人を責める主張を繰り返している。まさに「死人に口なし」だが、やっとの思いで裁判を起こした遺族が、本人を中傷する主張を裁判という公的な場で聞かなければいけないことの精神的ストレスは想像を絶するほどだ。
こうした証拠隠滅や責任転嫁は「たまたま」行われているわけではない。全て企業側の過労死をもみ消すための「戦略」である。過労死遺族の多くは、死亡後に会社から遺族年金や健康保険の説明は受けても、労災制度の説明を受けていない。コスト回避を戦略化している会社は「あえて」労災に触れようとせず、むしろ本人や遺族の誹謗(ひぼう)中傷を繰り返すことで精神的にダメージを与えて権利主張の機会を奪い取ろうとするのだ。
三菱電機では5人の労災が明らかになっているが、これは労災を申請してかつ認められた人数であり、仕事を理由に精神疾患の発症や過労死に至ったものの、そもそも申請できなかったり、申請しても証拠がなく却下されたりした人がこの背後に何人もいる可能性は否定できない。このような「コスト削減」の戦略が採られ続ける限り、過労死はなくなることはないだろう。
被害を受けたらどうすればよいのか?
労災申請や会社を裁判で訴えることは、突然大切な人を亡くした遺族がなかなか1人でできるものではない。必要資料を入手したり、会社の同僚にヒアリングを行ったり、労働時間を調べたりする作業は、労働NPOや労働組合、労働者側で活動している弁護士などの支援がなければ非常に難しい。
三菱電機に入社してわずか数カ月で息子を亡くした遺族は、弁護士とつながり、今後、労災申請などを視野に入れているという。もし「過労死かもしれない」と感じたら、ぜひ一度、労働問題の専門家に相談することをおすすめしたい。
私が代表を務める労働NPO・POSSEでも、遺族と一緒に証拠を集めたり、労災申請や裁判といった制度利用の支援を行ったりしている。自分1人で抱え込む必要はなく、不安なことがあれば専門家に相談してみてほしい。
著者プロフィール・今野晴貴(こんのはるき)
NPO法人POSSE代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間2500件以上の若年労働相談に関わる。著書に『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)、『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社新書)など多数。2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、大佛次郎論壇賞などを受賞。共同通信社・「現論」連載中。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門は労働社会学、労使関係論、社会政策学。
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。過労死事件では弁護士らと連携し遺族をサポートしています。
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。労働災害事件にも広く対応しています。
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