優秀なベンチャー企業育成に成功するイスラエル 政府が果たした役割とは?:イスラエルに学ぶビジネス(3/5 ページ)
1970年代の「超LSI技術研究組合」は大成功し、日本の半導体産業は名実ともに世界のトップとなった。しかしそれに続く「第五世代コンピュータプロジェクト」や「情報大航海プロジェクト」の失敗は記憶に新しい。一方で、イスラエルでは政府が起業家・挑戦者を支援するような枠組みによって、大成功を収めている。この違いはどこにあるのだろうか?
投資を促進する仕組みを作る
優秀なアイデアを持つ起業家を支援し、その成果のエグジットを通して新たな投資資金が生まれる。この好循環を回すためには、起業家とともにリスクを取る投資家が数多く必要である。その起業家育成のためにイスラエルが国として行ったのが、BIRD財団の設立とヨズマ・プログラムである。
BIRDの正式名称は、Israel-U.S. Binational Industrial Research and Development Foundationである。YouTubeにその概要を説明したビデオがあるので見てほしい。
この財団は、77年に米国とイスラエルの政府によって設立された。米国とイスラエルの企業が共同のプロジェクトを起こし、それが米国の求める技術を開発するものであれば、研究開発費の最大50%を財団が負担する、というプログラムである。
BIRDは、米国市場のニーズに合わせてソリューションを開発するイスラエル企業に、米国での販売機会を提供し、米国企業にとっては、効率的な研究開発投資を実現することを可能にした。いわば、ニーズとシーズのマッチングを行ったことになる。設立以来、米国の大手企業と950以上のプロジェクトが承認されている。
BIRDは他の副産物も生み出した。BIRDのおかげで、IBMやインテルなどの多国籍企業の米国オフィスでイスラエル人エンジニアが働くことが増えた。そして何年かの後にイスラエル人エンジニアが帰国を考えたとき、米国企業側はその優秀な人材を手放したくなく、彼らのためにイスラエルにR&Dセンターを開設したのである。現在350以上の多国籍企業がイスラエルにR&Dセンターを構えているが、BIRDはそのきっかけを作ったことになる。
さらに、イスラエル政府は93年にヨズマというプログラムを立ち上げた。これはもともとイスラエルにベンチャーキャピタル(VC)産業を育成する仕組みであり、政府が1億ドルのファンドを設けた。民間のVCがスタートアップ企業に60%の資金を出せば、政府が残り40%の資金を出すという内容である。しかも、その投資が成功した場合、民間VCは政府出資分を5年後に安く買い取れるようにしたのである。
すなわち、VCは初期投資リスクを低く抑えることができ、かつ、リターンとなる成果はすべてVCに還元されることになる。これは投資家にとっては大変有利なプログラムであり、米国の多くのVCがこの仕組を活用し、ファンドは拡大していった。同時に、米国VCに学ぶようにイスラエル国内のVC産業も成長してきたのである。
17年時点でイスラエルには約360社のVCが存在する。VCの役割は単にリスクマネーを供給するだけではない。シリコンバレーを見れば分かる通り、米国の多くの投資家は自ら起業の経験があり、その経験を元にメンターとしてスタートアップを育てるのである。
ヨズマにより、このような米国のVCとイスラエルのVCを組ませることで、イスラエルの投資家を育成することができた。これにより、徐々にイスラエルでも起業経験のある投資家が育っていった。ヨズマとは、ヘブライ語で「イニシアチブ」という意味だ。
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