優秀なベンチャー企業育成に成功するイスラエル 政府が果たした役割とは?:イスラエルに学ぶビジネス(4/5 ページ)
1970年代の「超LSI技術研究組合」は大成功し、日本の半導体産業は名実ともに世界のトップとなった。しかしそれに続く「第五世代コンピュータプロジェクト」や「情報大航海プロジェクト」の失敗は記憶に新しい。一方で、イスラエルでは政府が起業家・挑戦者を支援するような枠組みによって、大成功を収めている。この違いはどこにあるのだろうか?
挑戦者を邪魔しないための規制緩和とインセンティブを用意する
「挑戦者を邪魔しないための規制緩和とインセンティブ」。実はこれは、イスラエル保健省でFormer CIO & Director of DigitalHealthという役割を担った、Shira Lev-Ami氏の言葉である。BIRDやヨズマのような「仕組み」ではないが、政府の要人の言葉として、国の考え方を示すと理解してもいいだろう。
彼女は7年間保健省に在籍し、「デジタルヘルス」の基盤を作り上げた。国のヘルスケアサービスを量と質の両面から充実させ、イノベーションを加速させることで、ヘルスケアを国の成長エンジンとする、という思想の元に、あらゆる医療データをデジタル化し、HIE(Health Information Exchange)というインフラを構築したのである。
AIやサイバーセキュリティで知られるイスラエルの優れた技術をヘルスケア分野にも応用するためには、「データのデジタル化」が不可欠であると考え、Shira Lev-Ami氏は地道にデータの整備に取り組んだ。
その結果、イスラエルではどの病院で受診しても、データベースから患者の医療記録を参照でき、地域差のない医療サービスを受けることができる。保健省は、このデータアクセス環境を整備し、データを共有するプロバイダに対してインセンティブを与えた。更に、データを活用して新たなサービスを開発しようとする人々への規制を減らした。
一方、日本では個人情報保護の観点から、外部保存された電子カルテのような電子情報の利活用は、『引き続き慎重に検討してゆくべき課題』に留まっている。
近年AIによる医療画像診断のような技術も出てきており、参照できるデータ量は明らかにその診断精度の向上につながるため、電子情報の利活用の重要性は論を待たない。イスラエルでは、このような制約を緩和することで、アイデアのある人々が多くのデータを活用して新たなツールやサービスを開発する支援をしているのである。
中央年齢が30歳と非常に若い国ながら、人類共通の課題である高齢化を見据え、デジタル技術を活用して、病気にかからないための予防、病気になりにくい体を作る健康管理、そして、持続可能な医療を実現しようとしているのである。彼らにとっては、ヘルスケアは財政の負担となるコストではなく、利益を生む国の経済の成長エンジンとなっている。
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