優秀なベンチャー企業育成に成功するイスラエル 政府が果たした役割とは?:イスラエルに学ぶビジネス(5/5 ページ)
1970年代の「超LSI技術研究組合」は大成功し、日本の半導体産業は名実ともに世界のトップとなった。しかしそれに続く「第五世代コンピュータプロジェクト」や「情報大航海プロジェクト」の失敗は記憶に新しい。一方で、イスラエルでは政府が起業家・挑戦者を支援するような枠組みによって、大成功を収めている。この違いはどこにあるのだろうか?
国は中味に口を出さない
ヨズマの説明でみたように、イスラエル政府はスタートアップへの出資のリスクを40%負担する。しかし、どのスタートアップ企業へ投資するか、という中味については一切口を出さない。それは、プロである投資家の仕事なのである。
Vintage Investment PartnersのAlan Feld氏も、その講演のなかで、国は金は出しても口は出すべきではない、という基本となるポリシーを説明した。ヨズマの成功で多くのVCが生まれ、ハイテク企業が次々に成功を収め始めた02年にVintageは創業しており、現在最も成功しているVCの一つである。
また、イスラエルにはIIA(イスラエルイノベーション庁)という組織がある。6つの部署からなり、スタートアップの支援から製造業の生産性向上支援まで幅広く活動しており、年間予算480億円で1115のプロジェクトに助成金を出している。
ディレクターのAviLuvton氏は、「私達の役割は、製品のライフサイクルや企業を見守り、「市場の失敗」が起こりそうなところや障壁があれば、それを取り除くようにすることです」と述べている。
一方、冒頭の官製プロジェクトの例で見たように、日本では国がプロジェクトのターゲットを設定することが多かった。投資の面でも、産業革新機構のような官民ファンドがいくつもある。産業革新機構の例でいえば、出資金は政府が2860億円、民間企業25社が135億円である(JIC Webページより)。つまり、官民といいながら、大半は官=税金なのである。
国の成長戦略の一環として、民間ファンドだけではできないリスクテイク機能を用意し、高成長企業を育てるという狙いは間違ってはいないが、出資金の税金を無駄に使ってはいけないという原則のもとに、「国による口出し」が入るのである。
例えば、JDI(ジャパンディスプレイ)やルネサスエレクトロニクスの例に見られるように、スタートアップへの投資だけではなく、成長の難しい企業の生き残り支援に投資するケースもあり、また、シャープの事例のように、日本企業の外資による買収を阻止するために使われたこともある。
その理念に掲げられている、「オープンイノベーションを通じて次世代の国府を担う産業を育成・創出します」とは明らかにかけ離れている。前述のIIAディレクターAviLuvton氏は日本のメディアの取材で「私達の役割は〜障壁を取り除くことです」と話しているのに比べると、なんと大きな違いだろうか。
「デザートを先に食べるイスラエル人に学ぶスピード経営」でも述べたが、日本人は「失敗」をネガティブに捉えることが多く、国民自身が政府や官僚に無謬性を求めるがゆえに、国は規制を増やしたり、口を出したり、という安全サイドに立ちがちになる。この点を改め、規制を緩和し、挑戦者が萎縮せずに挑戦しやすい環境を整えることこそ、我々が心がけるべき点ではないだろうか。
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