少なすぎる残業に要注意! 組織を崩壊させる「粉飾残業」のあきれた言い訳と手口:たかが残業、されど残業(2/5 ページ)
2019年4月に施行された働き方改革関連法案で、大企業を対象に残業規制の強化がなされた(中小企業は20年4月施行)。すると、今までは多すぎた残業が、今度は少なすぎるという問題が起きているという。残業規制をかいくぐる悪質な「粉飾残業」とは?
粉飾残業のあきれた言い訳
管理部長は、社長が退室してから、「あっさりと、現場に裏切られましたな」とつぶやいた。どこか自虐気味だった。
この会社は、PCの起動時刻、シャットダウン時刻を労働時間として記録している。しかし、何らかの事情があれば、それを理由にPCを起動している時間を労働時間に含めなくてもいいことにしている。部下が目撃した情シスのメンバーたちの勤怠データを見てみると、多くの日で午後10時過ぎにシャットダウンしているにもかかわらず、定時の午後6時ごろに仕事が終わっていると報告していた。シャットダウンした時間以降については、「自己研鑽(けんさん)」とメモに記されている。
「自己研鑽って、なんだ?」と管理部長がまたつぶやいた。私はスルーした。そんなメモなど、ウソ偽りに決まっているからだ。2週間をさかのぼると、次のような記録が残っている。ザっと見ただけで、入力者の不真面目さが分かる。
月)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:42〜21:09 メモ 18時以降、自己研鑽
火)労働時間 9:00〜18:00 PC使用時間 8:49〜20:46 メモ 18時以降、自己研鑽
水)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:41〜21:53 メモ 18時以降、自己研鑽
木)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:34〜22:11 メモ 18時以降、自己研鑽
金)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:42〜19:22 メモ
土)
日)
月)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:29〜21:11 メモ 18時以降、自己研鑽
火)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:43〜22:31 メモ 18時以降、自己研鑽
水)労働時間 9:00〜18:00 PC使用時間 8:48〜18:35 メモ
木)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:41〜23:49 メモ シャットダウン忘れ
金)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:33〜20:22 メモ 18時以降、自己研鑽
土)
日)
(※編集部注:実際のデータとは異なります)
過去2週間で、定時の午後6時ごろにPCをシャットダウンしたのが、たったの1回しかない。それ以外は、定時後にPCを使って自己研鑽をしていたようだが、それは事実なのか。しかも、その自己研鑽の時間は、多くが数時間を確保している。事実であるとしたら、どんな自己研鑽を数時間もやっていたのか。
そして午前0時近くにシャットダウンしたときだけ、「シャットダウン忘れ」とあるが、これは家にPCを持ち帰って残業をしていただけではないのか。調べてみると、この日は午後9時過ぎにオフィスが施錠されていたので、恐らくそうに違いない。
「それにしても、ずさんですね」と私は言わざるを得なかった。モラルハザードしかけていると言っていい。この会社の社長は、19年の4月から「法令順守の経営を貫くために、不退転の決意でやる」と言い、私たち外部コンサルタントを招き入れた。その際、この管理部長も「残業削減、絶対達成させます」と宣言していた。にもかかわらず、この体たらくだ。
「上司である、情シスの部長や課長も同罪ですね。ほとんどマネジメントしていないでしょう?」と問いかけても、管理部長は額の汗を拭くだけで、答えない。現場からの申告を妄信していた自分を恥じているようだ。妄信であればまだいい。ここまで労働時間の記録がおかしいと、遅くとも午後7時にはタイムカードを切らせ、以降は残業時間と記録させずに業務をさせていた可能性すらうたがってしまう。
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