小泉進次郎氏が叫ぶ「空気を変える」はズレている 男性育休が増えない真因:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)
小泉進次郎環境相の「育休宣言」が話題になっているが、「空気を変える」と政治家が連呼することには違和感がある。確かに育休を取りづらい空気はあるが、それだけではない。男性が育児をするための「時間」を増やす政策が最も必要なのではないか。
男性にもケア労働をする“権利”を
実際に、日本同様「男は仕事、女は家庭」という文化が根強かったドイツは、育児や家事などのケア労働への男性参加を進めるために、徹底的に「時間管理」にこだわった政策を進めてきました。
ドイツは今でこそ「共働き先進国」に分類されますが、元来、女性の母親としての役割を強調する組合主義的福祉国家を代表する国でした。そこで、短い労働時間を徹底的に厳守する政策を進め、男性でもケア労働にアクセスする権利を保護。
生きていくためには「お金」が必要なので、私たちは「市場労働」をする。生きていくためにご飯を作って食べ、部屋を掃除する。子どもや高齢者にはその力がないので、他者(親や子など)がご飯を作ったり、掃除をしたりといった「ケア労働」をする。
こう考えると、労働市場における市場労働(有償の労働)は男性が、家庭におけるケア労働(無償の労働)は女性が、という前提で考える必要はなくなります。というか、そう考えたらおかしい。男であれ女であれ、市場労働とケア労働にアクセスする権利があり、前者は「労働権」、後者には「父母権」「保育権」があって当然です。
つまり、ドイツは家事や育児のための時間を確保することを、「ケア労働の権利の保護」と考え、労働時間の徹底した管理、育児休暇取得時の賃金などを議論、検証し、制度変更を進め、男性の育児休暇取得率を高めてきました。
その結果として、「会社で仕事ばっかりやってないで、さっさと家帰って家事とか育児しないと一人前じゃないぞ!」という空気が熟成されたのです。
政治家がやるべきことは、「空気」を変えることではなく、働く時間を徹底的に管理すること。子どもがいようといまいと関係なく「定時退社」を当たり前にすること。議論、検証、制度変更し、その結果として空気が変わればいいのです。
つまるところ「空気を変えま〜す」だけで終わらせるな、と。政治家としてやるべきことも、きちんとやってほしいと心から願います。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)。2019年5月、新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)発売。
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