「3年で30万人」は絵空事か 就職氷河期世代の雇用対策に欠けた、深刻な視点:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
兵庫県宝塚市が実施した、就職氷河期世代対象の正規職員採用では、1635人が受験して4人が合格した。政府はこの世代を「3年で30万人」正規雇用することを掲げるが、どうやってそんなにも多くの人を救えるのか。最大の問題は低収入による“リソースの欠損”だ。
年齢は40〜45歳。いずれも大卒以上で、うち2人は無職。1人は非正規雇用で、職歴は多い人で7つもの会社を経験していた――。
実はこれ、兵庫県宝塚市が「就職氷河期世代」を対象に実施した正規事務職員採用に合格した男女各2人のプロフィールです。
全国初となった宝塚市の氷河期世代に特化した採用には、3人の枠に1635人が受験し、倍率は545倍にまで跳ね上がりました。40代前半といえば働き盛りの年齢なのに、時代が悪かったというだけでこんなにも厳しい状況に追い込まれてしまうのか。皮肉にも政府が氷河期世代の支援に乗り出したことで、より鮮明にその不遇さが浮き彫りになってしまったのです。
それまで無視し続けてきた氷河期世代に対し、安倍晋三首相が突然、国を挙げて支援に取り組むと発表したのは半年前です。「氷河期世代に能力開発を!」「氷河期世代を正社員に!」とまるで氷河期世代の人たちの能力が低いかのような言葉を並べ立て、あげくの果てに「人生再設計第一世代」などというネーミングを掲げました。
あらためて言うまでもなく、氷河期世代をつくったのは「企業」です。企業が景気が悪いことを理由に採用を抑え、「契約だったらいいよ」と非正規社員を増やしました。ならば、まずは企業が率先して、自分の会社の氷河期世代の非正規社員を正社員にすればいい。無業状態の人についても、企業が“研修生”として雇い入れて教育し、正社員にすればいい。会社の中に「居場所」ができれば、安心して企業が求める能力開発に取り組めるだろうし、自分に投資してくれた企業が「正社員」として受け入れてくれれば、今まで不遇な扱いを受けてきただけに、「よし、もうひと踏ん張りしてみよう!」と彼らも最後の力を振り絞り一生懸命働くことが期待できるはずです。
ところがなぜか、そういった議論には一向になりません。
今回の宝塚市の採用も、政府が全国の都道府県に通達したことでスタートしています。政府は就職氷河期世代の正規雇用を3年間で30万人増やすとしているのに、どうするのでしょうか。1635人が受験し、1631人は不合格です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。月13万円で生活できるか 賃金を上げられない日本企業が陥る悪循環
米フォードの創業者はかつて賃金を上げて生産性を高めた。現代の日本では、海外と比べて最低賃金は低いまま。普通の生活も困難な最低賃金レベルでの働き手は増えている。従業員が持つ「人の力」を最大限に活用するための賃金の適正化が急務だ。カネがなければ諦めろ? “身の丈”に合わせる英語民間試験導入は廃止すべき理由
萩生田文科相の「身の丈」発言も問題視された、大学入試への英語民間試験導入が延期になった。家庭の経済力による機会の格差が、学力、そして“生きる力”に直結する日本社会で、今回の制度導入は貧困世帯の子どもの命をないがしろにするようなものだ。繰り返される「のぞき見採用」 リクナビ問題に透ける新卒採用の“勘違い”
「リクナビ」の内定辞退率予測データを巡る問題が広がりを見せている。採用側のコミュニケーション能力が貧弱だと感じる事例が毎年のように繰り返されている。学生にとって「就職先を志願する」ことは重い。採用側の姿勢を見直すことが必要だ。「会社員消滅時代」到来? 令和時代の“自由な働き方”に潜む落とし穴
平成30年間で会社の「働かせ方」は変わり、働く人との“信頼”は崩壊した。令和時代の働き方はどうなるのか。政府が公表している報告書を読み解くと、「自立」という美しい言葉が目立つ。だが、そこには落とし穴があって……。