イチゴが近づいてくる! 農業を救うかもしれない「自動化」の現場を探る:効率化、新規参入につながるか(5/5 ページ)
農業の現場は高齢化や人材不足に陥っている。その解決に役立つと期待される技術が「自動化」だ。イチゴが動くことで収穫の作業負担を軽減する「イチゴ移動栽培装置」、経験がなくても適切な水やりができる「自然給水栽培装置」。この新しい技術を佐賀の現場で体感した。
経験とノウハウがなくても高品質の作物を作れる
従来、水や肥料の最適な量を把握しながら栽培するためには、経験やノウハウが必要だった。そのため、新しく栽培を始めても、市場に出せるだけの品質のものを収穫するには時間がかかってしまう。自動で最適な給水ができれば、経験に頼る部分が減る。新規参入のハードルを下げることができる装置だ。
さらに、この装置を使って給水をした場合、従来よりも使用する水量を45%削減、液肥の量は50%削減することができるという。
中尾氏はヤンマーグリーンシステムと二人三脚で、この装置を導入したビニールハウスをつくり上げた。当初は水位の調整が難しく、1列の苗が全て枯れてしまったこともあったという。建設業の経験がある中尾氏の知識も活用し、装置を支える部分のパイプの量を増やすことで装置を水平に保てるようにして、適切に水位を管理できるようにした。
中尾氏は「補助金がないと事業にならないものは、事業とは言えない」と話す。初期投資に2000万円かけて農業に参入し、自社の事業の柱として一から育てようとしている。トマトがこのまま順調に行けば、イチゴ栽培などの事業規模拡大も検討するという。
中尾氏のような新規参入の事業者でも、1年目から高品質の作物を栽培できれば、次の事業展開も視野に入ってくる。自動化の技術には、単なる効率化や省人化だけでなく、新規就農のハードルを下げ、背中を押す効果もあるようだ。
イチゴ移動栽培装置と自然給水栽培装置は、本格的な展開が今後の課題となる。前者はイチゴの生産量を安定的に確保したい農業法人などに対して、“イチゴ工場”を整備できる手段として提供。後者は新規で農業に取り組む事業者などに、養液栽培の手間を省ける手段として提案していく。両製品とも、関東や九州で提案を強化し、認知度を高めていくという。
両製品は、作業負担の軽減や新規就農のハードルを下げることに寄与する新しい技術だが、農業に関する技術は他の幅広い分野でも発展している。大量栽培の作物には効率化・省人化が求められる一方で、手をかけた高付加価値の作物も消費者から支持を得ている。今後も、事業戦略や課題に合った便利な使い方ができる技術が実用化されていくだろう。
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