ゴーン国外逃亡で考える、日産前社長の西川氏が逮捕されない理由と検察の劣化(前編):専門家のイロメガネ(6/6 ページ)
ゴーン氏の会見後も毎日のように新しい動きが報じられたが、そもそもの発端を理解している人は少ないだろう。世間では「給料をごまかして逮捕された挙句に国外逃亡したとんでもないヤツ」と認識されていると思うが、実際はそのような単純な話ではない。なぜゴーン氏が国外逃亡を選んだのか、なぜ西川氏と検察もまた問題があると断言できるのか、複雑に絡んだ事件を整理してみたい。
ゴーン氏が死んだら未記載の退職金は払われるのか?
虚偽記載は退任後に受け取る報酬、つまり退職金の未記載だ。記載義務がある報酬が未記載ならば株主への背信行為になるが、少なくとも裏金としてゴーン氏がお金をもらっていたという話ではない。問題となっているのはあくまで退職金の「未記載」で「お金をこっそりもらったこと」ではなく、実際に受け取った事実もない。
その退職金も、退任時期は未定で支払いの確約もなかった。支払い方法として退任後にライバル企業では働かず顧問料として払うという書類まであり、そこには西川氏のサインもあるという。果たしてこれを退職金と呼ぶことはできるのか。
役員でも社員でも、退職金であれば将来確実に発生する支払い、つまり借金と同じ性質である「負債」として決算書に計上する必要性も、「場合によっては」ある(詳細は前回の記事)。しかし退任後の顧問料、就労への報酬ならば掲載の義務はない。
19年1月8日に行われた勾留理由開示を行う法廷の場で、ゴーン氏は意見陳述書を読み上げた。逮捕後初の発言として当時は大きく話題となった。
そこでゴーン氏は未記載の報酬について「死亡テスト」という表現を使い、「もし私が今死んだら、記載されていない退職金は私の遺族に支払われるのか?」と指摘している。
これは屁理屈でも何でもなく、支払いが「確定」しているお金であれば会社の業績がどうなろうと、そしてゴーン氏本人が生きていようと死んでいようと逮捕されようとゴーン氏のもの、つまり死んでいれば遺族が相続財産として受け取る権利が発生するという意味だ。
ゴーン氏はレバノンへの逃亡後に、ルノーへ退職金等の支払いを求めて提訴したが、日産にも同様の支払いを求める可能性がある。退職金で支払いが確定しているのなら、犯罪を犯そうとゴーン氏は受け取る権利がある。犯罪者が相手なら借金を踏み倒していいなどという法律はない。
19年6月には日産がゴーン氏に対して、67億円の退職金や株価連動の報酬を支払わない方針を明らかにしている。これは虚偽記載と関係ない報酬だという。
では虚偽記載されていたという報酬は果たして支払われるのか。権利はあるが損害賠償と相殺といった話になるのか、それとも支払わないのか。退職金は確定していたのに記載しなかった、という話がどこまで本当なのか、ゴーン氏がレバノンから支払いを求めて訴えを起こした場合、本音と建前が交錯する極めて興味深い争いになるだろう。
→中編
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
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