報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編):専門家のイロメガネ(4/5 ページ)
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ないはずだ。
運用リスクを日産に押し付けたゴーン氏の謎の言い訳
ゴーン氏もクロだと断言したように、あきらかに問題行動を起こしている。
ゴーン氏は個人的な資産運用のリスクを日産に押し付けている。これが3回目の逮捕容疑となる。この話が報じられた際には個人の取引を法人に付け替える、しかもオーナー会社ではなく上場企業でそんなことはそもそも可能なのか? と疑問だったが、それが事実であると分かった際には腰を抜かしそうになった。
その後この取引は、給料を円でもらっている一方で普段の生活はドルで支払いっていることから、為替変動のリスクを避けるための取引であるとも報じられた。一見するともっともらしい説明だが、損失額が10億円以上と大きすぎる。なぜそのような巨額の取引を行ったのか、ゴーン氏は自ら法廷で語っている。
日産で働くことになった際に報酬はドルで希望したが受け入れられなかった。それ以来、為替の変動に懸念を抱いていたという。
数々の無茶な行動をしてきたゴーン氏の発言としては、ハッキリ言って意味不明だ。世界中で事業を展開している日産では、ドルやユーロなど円以外で報酬を受け取る社員は多数いるだろう。仮に何かしらの社内規定で当初は断られたとしても、最高経営責任者となったゴーン氏が自身の報酬をドルに変更する権限すらなかったとは到底考えられない。
加えて急激な円高と、リーマンショックによる株価の急落で多額の損失が発生し担保が不足したとも説明しているが、このあたりの説明もさらに意味不明だ。
報酬複数年分に渡る多額かつ長期の為替取引をしていたならば、為替リスクを避けるためではなく、ただの資産運用だ。運用スタイルもハイリスクなものとも一部では報じられており、為替リスクの怖さをまさかゴーン氏が理解していなかったとは言い訳にもならない。
いずれにせよ他の役員や一般社員が日産にリスクの保証をしてほしいと依頼をしたところで、何をバカなことを言ってるのかと鼻で笑われて終わる話だろう。
リスクの付け替えについてゴーン氏は、担保を個人で負担するには日産を辞めて退職金を受け取るぐらいしか対応方法はなかった、しかし日産を辞めるわけにはいかなかった、とも法廷で発言している。自分勝手なムチャクチャな説明ぶりにはあきれるしかないが、この取引は後に証券取引等監視委員会(SESC)に問題視され、結局は日産から再度ゴーン氏の元に戻されることになる。
リスクの付け替えで損が発生してもゴーン氏が負担する約束だった、そして実際に損は発生していなかったというが、そもそもリスクの付け替え自体が自身の権力を利用したゴリ押しではないのか。損失発生の有無にかかわらず、言い訳の余地はないように見える。有価証券報告書の虚偽記載を問題にするのなら、退職金よりもこの取引が記載されていなかった事の方がよっぽど問題ではないのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ゴーン国外逃亡で考える、日産前社長の西川氏が逮捕されない理由と検察の劣化(前編)
ゴーン氏の会見後も毎日のように新しい動きが報じられたが、そもそもの発端を理解している人は少ないだろう。世間では「給料をごまかして逮捕された挙句に国外逃亡したとんでもないヤツ」と認識されていると思うが、実際はそのような単純な話ではない。なぜゴーン氏が国外逃亡を選んだのか、なぜ西川氏と検察もまた問題があると断言できるのか、複雑に絡んだ事件を整理してみたい。
ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 後編
ゴーン氏逮捕については、センセーショナルな事件であったことや、私的流用や公私混同の話がゴシップネタとして面白おかしく報じられたことから、ゴーン氏一人が注目を集める格好となった。しかし企業としての責任にフォーカスすると、どう見えるだろうか?
ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 前編
ゴーン氏逮捕の真実は今後明らかにされていくだろうが、私的流用が多々あったことは間違いなさそうだ。しかし、そのような振る舞いをとめることができなかった役員にも責任がある。西川氏らほかの役員の責任はどう捉えたらいいのだろうか?
「ほら、日本ってめちゃくちゃでしょ」 ゴーン氏の逆襲をナメてはいけない
カルロス・ゴーン氏が、会見を開く予定だ。「大丈夫でしょ。悪いのは彼なんだし」「すぐに逮捕して、日本に戻せ」といった声が聞こえてきそうが、大きな声をあげればあげるほど、日本にダメージを及ぼすリスクがあるのだ。どういうことかというと……。
ゴーン妻の“人質司法”批判を「ざまあみろ」と笑っていられない理由
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の逮捕・勾留に関して、キャロル夫人がいわゆる「人質司法」を批判した書簡を人権団体に送った。刑事司法制度において「自白偏重主義」を貫いてきた日本は、海外からどんな国であると認識されているのか。
資本主義経済に対するテロ行為 ゴーン問題の補助線(1)
元日産自動車会長、カルロス・ゴーン氏の逮捕を受けて、世の中は大騒ぎである。日仏経済界や政治レベルでの懸案にまで発展しかねない様相を呈している。今回はこの事件について整理してみたい。
