報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編):専門家のイロメガネ(5/5 ページ)
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ないはずだ。
副社長の西川氏はゴーン氏の行動を認めた
ではこの件はゴーン氏だけに責任があるのかというと、決してそうではない。この取引は役員会の承認を得ていると報じられている。
ゴーン氏と取引をしていた新生銀行が多額の損失を発生させたゴーン氏に担保を要求すると、ゴーン氏は取引の当事者を日産に変えたらどうか? と提案した。取引相手が日産なら担保は不要だが、そのような事をするには取締役会の決議が必要で、常識的に決議はされないと回答したが、結果的に決議が通って付け替えは実行され、後に証券取引等監視委員会の指摘で解消される。
監視委は取締役会での決議は事実上、偽装された疑いがあると判断。契約変更は会社法違反に当たる恐れがあると指摘した。結果として、契約は日産からゴーン容疑者の資産管理会社へ戻されることになった。
取引の経緯を知る関係者は「議事録は、取締役会で実際に諮られたとしても、他の取締役たちは何の決議をしたか分かっていないだろうなと思われる内容。日産という会社はゴーンさんに逆らえないんだなと思った」と話した。
ゴーン容疑者「決議あればいいんだね」 損失付け替え、銀行難色を押し切る 産経新聞 2018/12/23
記事にある通り、役員に詳細を伝えていないとか、役員をだましたかのような話も一部には出ているが、それも含めてゴーン氏の暴走を許した役員の責任は免れようがないだろう。役員会でこのような重要な取引が見逃されていたのなら、ガバナンスの崩壊としか言いようがない。そしてこの取引が行われた時期、西川氏はすでに副社長で当然責任の一端を担う。
報酬の為替リスクを避けるためにこのように無茶な話が役員会で出たのであれば、じゃあ今後はドルで報酬を受け取ればいい、今発生している損失については自己責任でそんなものは知らないと役員一同で突っぱねればいいだけだ。
退職されたら困る、どうしてもゴーン氏を引き留める必要がある、ということであればリスクの引き受けなどおかしな取引はせず、日産がゴーン氏に資金を貸し出してその後の報酬から返済させるなり、この時点で発生していた退職金を担保にするなり、やり方はいくらでもあった。
ただ、貸付を行った場合は有価証券報告書にゴーン氏に多額の資金を貸したこと、利益相反の取引を行ったことを記載する必要があるだろう。そのような悪目立ちを嫌ったということか。
それが必要な取引であれば堂々と株主に対して説明して、それでもゴーン氏に続投させるか株主に判断してもらえばいい。このトラブルはゴーン氏が無茶をしたというだけでなく、役員会が機能していたのか、日産にガバナンスは働いていたのか、深刻な状況を示している。少なくともゴーン氏一人を逮捕して終わるような話ではない。
ゴーン氏の裁判が行われていれば事実関係は明らかになったと思うが、過去の経営陣が適切に経営判断を行っていたか、役員会は機能していたのか、ゴーン氏の逃亡とは関係なく今からでも検証されるべきだ。
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
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