『ポプテピピック』の竹書房、米IT大手に著作権訴訟を挑む訳――日本漫画、世界の海賊版へ反撃の狼煙:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(5/6 ページ)
『ポプテピピック』の竹書房が米ITに著作権訴訟を提起。背景には海賊版サイトに苦しむ日本漫画界の反撃が。遅ればせながら取ったその“反攻”の意義と展望を読み解く。
「漫画村」の悪夢が業界変えた
1つは18年に国内で大きな問題となった海賊版サイト「漫画村」の影響が大きい。「漫画村」がネットユーザーに急速に普及する過程で、出版各社でそれまで急成長していた電子コミックの売上高・成長が急に大きく落ち込んだ。
さらに「漫画村」閉鎖後には、逆に売上高が急伸した。この相関関係を証明することは難しいが、少なくとも出版関係者に海賊版対策の必要性を認知させるのに十分な効果にはなった。
椎名氏は「『漫画村』閉鎖後に、デジタルの売上が伸びたことで出版社の姿勢が大きく変わったと感じます。海賊版対策に更に力を入れるなど、具体的に変化しているようです」と話す。
それまでは正規版の有料ユーザーと海賊版ユーザーは全く別で、「海賊版サイトは正規ユーザーを奪っていないのでは」との意見もあった。しかし現在はそうした主張はあまり聞かれない。
もう1つは出版社が海外ビジネスを、これまでにないほど重要視するようになったためだ。実は国内市場に較べて、海外市場は決して大きくない。
海外2大市場とされるのは、北米(米国とカナダ)とフランスだ。しかし北米ではアメコミ、日本マンガ、ヨーロッパのバンドデシネの年間売上高は約1200億円、そのうち日本マンガが占めるのは10%〜15%程度だ。フランスは全体が600億円程度で、日本マンガはその4割近く。市場の割合は小さくないが、国内の紙とデジタルを合せて約5000億円の市場にはとても及ばない。海外市場が軽視されてきた理由だ。「海外ビジネスなしではビジネスプランが立てられない」とされるアニメ・ゲームとはだいぶ様相が違う。
それでも国内の紙市場が急速に縮小し、人口が減少するなかで、事業成長の機会は海外にしかない。日本の多くの産業と同様、マンガ業界も海外ビジネスに目を向けないわけにいかなくなってきた。そして海外展開の最大の障害が海賊版サイトなのである。
むしろ活発化する海賊版サイト対策は、海外マーケットに対して積極姿勢に転じる日本出版社の変化の表れである。出版・マンガビジネスは、ダイナミックな転換点にいるのだ。
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