「未来のスポーツの先生」はAI? スマホ動画で「お手本との違い」が分かる時代に(1/3 ページ)
ジムにトレーナーがいない時間帯でも、AIが「正しい姿勢で筋トレができるよう」教えてくれるようになるかもしれない。
お手本と自分の動きを比較し、よりお手本に近い動きを学んでいく――。習い事、特にスポーツの分野で有効な方法だが、少子高齢化で労働人口が減っていく中、対応できる人を探すのは難しくなる一方だ。
しかし、これからは、今話題の「AI」が先生になってくれるかもしれない。NTTPCコミュニケーションズが開発した「AnyMotion」は、まさにその実現を目指すサービスだ。
2人の人体動画から検出した骨格のデータモデルを独自のAI技術を用いて比較し、動作(フォーム)の差異を可視化するAnyMotionは、スポーツ分野をはじめ、医療・介護やエンターテインメントなどで、どのような業務を支援するのだろうか。NTTPCコミュニケーションズでAnyMotionの開発を担当する伊藤大樹氏(取材当時)と組橋祐亮氏に聞いた。
スマホで「正しいスクワットができているか」が分かる時代に
両氏が「分かりやすいAnyMotionの活用例」として紹介したのがスクワットのトレーニングだ。自宅で手軽にできるトレーニングとして知られているが、手軽であることと簡単であることは同じではない。
ダイエットや筋力強化、身体の引き締めなど、目的にあった「正しいやり方」で行わないと、十分な効果を得られないどころか、逆効果にもなりかねないというから難しい。しゃがんで、立って、という動作をやみくもに繰り返せばよいわけではないのだ。
例えば、ダイエット目的で行う「ノーマルスクワット」では、次のようなやり方が指導されている。
- 足は肩幅より少し広めに開く
- 足の爪先は、まっすぐよりも少し外側を向ける
- お尻を後ろに突き出し、膝が爪先より前に出ないように膝を曲げる
- 顔を上げ、胸を張り、背筋を伸ばす
- 太ももと床が平行になるまで腰を落とす
- 腰を軽く曲げたところまで立ち上がる
このように、スクワット一つとっても、実は思っていた以上に“注意しなければいけない点”が多いことが分かる。
そもそも難しいのは、自分では「やってるつもり」でいても、実際には「できていない」ことがほとんどであることだ。
鏡の前で姿勢を確認しながらやってみるという手もあるが、自分で見ることができるのは正面からの姿に限られる。上記のような「お尻を後ろに突き出し、膝が爪先より前に出ないように膝を曲げる」といった動作がきちんとできているかどうかを確認するには、正面だけでなく横からも見ることが必要だ。そしてできることなら、正しい動作と自分の動作の違いをしっかり把握した上で、修正を図っていくことが望ましい。
そんなニーズに応えるのが、AnyMotionというわけだ。
モーションセンサー不要で“お手本との違い”が分かる
AnyMotionは、異なる2つの人物動画から検出した骨格(関節)データを、同社が独自開発したAI技術を用いて比較し、動作(フォーム)の差異を可視化するサービスだ。
すでにプロスポーツやトップクラスの競技スポーツの世界では、モーションセンサーを装着し、複数台のカメラで捉えたアスリートの身体の各部の動きを3Dデータでモデル化して分析することで、「その競技におけるパフォーマンスを最大限に高めるためのフォームを追求する」といったことが行われている。AnyMotionもこれと同様のものかと思いきや、そうではなく、利用目的も、対象者も全く異なるサービスだ。
AnyMotionは、誰でも持っている汎用的なスマートフォンのカメラ機能などで撮影された動画から骨格を自動検出する機能を備えるとともに、そのデータモデルの比較や分析を行う機能をセットにして提供する。要するにモーションセンサーのような特殊な装置を身体に装着したり、高度な撮影機材をセッティングしたりしなくても、簡単かつ手軽にフォームを可視化することができるのだ。
同社でAnyMotionの開発を担当している伊藤大樹氏は、同サービスのメリットについて「これまでプロスポーツ選手しかできなかった動作分析を、アマチュアスポーツや学校の部活動などでも行うことが可能となります。例えば、さまざまなトレーニングや基礎的な動きについて、『お手本となるトレーナーの動作』と『トレーニーの動作』の差異を定量的な数値で可視化することで、感覚に頼らない効率的かつ効果的な動作改善に役立ちます」と説明する。
ただ、このような利用シーンでは、どのくらいの精度なのかが気になるところだ。個体差が大きい人間の身体の動きをキャプチャーすることは容易ではなく、だからこそ、これまでモーションセンサーなどの特殊な仕組みを必要としてきたわけだ。さらに言えば、計測精度を確保するためには、モーションセンサーを身体の定められた場所に正しく装着する必要があり、その作業自体にも非常に高度な知識と熟練が要求される。
スマートフォンのカメラで撮影するだけで動作を可視化し分析できる、というのは便利だが、本当にそれで十分な精度を確保することはできるのだろうか。
そこにブレクスルーを起こしたのがAI技術だ。AnyMotionの開発に携わる組橋祐亮氏は、「AI分野のさまざまな技術の中でもここ数年の深層学習(ディープラーニング)の進化は目覚ましく、これを応用した画像認識も飛躍的な発展を遂げています。これによりスマートフォンのカメラで撮影した動画からも、肩や腰、肘、膝、手首、足首などの関節がどこにあるのか検知することが可能となりました」と説明する。
こうして、同じ角度から撮影したトレーナーのお手本動画とユーザー動画を比較し、差異を判定することが可能となったという。
関連記事
- 面談のコメントから「辞めそうな人」がここまで分かる――「短期離職者に悩む会社」の人材流出を止めたAIの力
1年以内に多くの人が辞めていく――。そんなソラストの離職率大幅改善に貢献したAI活用法とは。 - 郵便配達員や窓口担当者を「IT人材」に――日本郵便が取り組む“現場が分かるIT担当”の育て方
不足しているなら育てればいい――。IT未経験者を対象にした日本郵便の「IT人材育成プログラム」とは。 - 欧米と日本の“いいとこ取り”でIT化を加速 ライフネット生命のCIOが取り組む、システム内製化への道
急速なビジネス環境の変化に追いつけるシステムを――。そんなミッションのもと、ライフネット生命のCIOに就任した馬場靖介氏。外資系企業での経験を生かした、欧米と日本の“いいとこ取り”で進めるトランスフォーメーションとはどのようなものなのか。 - ダイバーシティ工場への挑戦 ポッカサッポロが「全ラインの生産を止めてまで」社員総出のイベントを行うわけ
人手不足に悩む工場は多い。ポッカサッポロ フード&ビバレッジの群馬工場もその一つだ。そんな工場が、外国人スタッフの採用に乗り出している。異文化人材の受け入れのために意識した、マネジメントの工夫とは。 - 日清食品HDの知られざる「IT革命」とは? 変革の立役者に直撃
40年間使い続けた古いシステムを撤廃、ビジネスの課題を解決できるIT部門へ――。そんな大きな変革プロジェクトでIT賞を受賞したのが日清食品ホールディングスだ。2013年、CIO(chief information officer)に就任した喜多羅滋夫氏は、どんな方法で昔ながらのIT部門を“戦う集団”に変えたのか。プロジェクトの舞台裏に迫った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.