フィンテックは日本の個人投資の起爆剤に? Fintech協会理事の神田潤一氏インタビュー:新連載・フィンテックの今(3/4 ページ)
日本の個人金融資産は1800兆円に上るものの、依然として現預金が占める割合が高く、十分な資金が投資には回っていない。個人の資産形成が十分に進まない現状を、フィンテックがどう変えるのか。Fintech協会理事の神田潤一氏に聞いた。
――資産運用のフィンテック以外には、どんなサービスが投資への呼び水になるでしょうか。
神田 家計簿アプリなどのフィンテックサービスでは、これまで蓄積してきた口座残高や購買などのデータを活用し、資産運用に関してアドバイスをしていくサービスも提供され始めています。データによって生活様式や行動特性が分かるため、ライフステージに合わせて支出や収入をシミュレーションし、よりそれぞれの個人に適したアドバイスを提供することが可能になるでしょう。ファイナンシャルプランナーによる対面のアドバイスに比べると時間をかけずに簡単にアドバイスを受けることができるうえ、アプリ上で必要に応じて自分でシミュレーションできるようなサービスも広がっていくと思います。
もう一つ大きいのがキャッシュレスです。大手の参入が相次いだ19年は「キャッシュレス元年」といわれました。キャッシュレス化が今後より進むことで、購買データの蓄積が進むほか、電子マネーを投資に振り向けることも手軽にできるようになるでしょう。20年〜21年はキャッシュレスの利用が一層拡大することで、貯まった電子マネーをどう使うかという点に消費者の関心が向かうと見ています。
――フィンテックはここ数年大きな話題を呼びましたが、投資に関するサービスなどはあまり普及していない印象もあります。本当に起爆剤となるのでしょうか。
神田 新しいものにすぐ飛びつかないというのは日本人の国民性もあるでしょうね。これまで投資をしてこなかった人たちの関心は、そう簡単に株式投資などに向かいにくいというのも事実でしょう。
スマホに慣れ親しんだ若い世代には投資に振り向けるお金がない、というのもやはり要因の一つだと思います。ただ、この点に関しては今後5〜10年で団塊の世代からその子供の世代へ、相続や事業継承によって資金が移譲されることで少しずつ解消すると見ています。その間にいかに魅力的で多様なサービスをフィンテック企業が提供できるかが重要となるでしょう。
投資が盛り上がらない理由の一つには相場の動向もあると思います。ここ2年ほど日本株の相場はさえませんでしたが、19年後半から持ち直してきました。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の価格が急騰した17年に仮想通貨の投資家が一気に増えたように、株式相場が上昇基調になれば、おのずとすそ野は広がるでしょう。そうなれば改めてフィンテックのサービスが注目されるようになるはずです。
――投資家層を拡大するため、ネット証券を中心に投資信託の購買手数料や株式の売買手数料をゼロにする動きが広がっています。手数料が安くなれば投資家のハードルは下がりますが、金融機関の経営は成り立つのでしょうか。
神田 売買手数料の無料化などは、今までと同じようなビジネスモデルではやっていけないという既存の金融機関の危機感の表れでしょうね。金融機関としても新しいものに取り組もうとしてはいるものの、消費者にとって直感的に使いやすいようなUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)を作るのは、やはりスタートアップの方が得意です。今後は既存の金融機関がスタートアップと協力して新しいサービスを開発する動きがより広がるでしょう。運用コストを下げる中で投資家が増えれば、安い手数料でも十分に収益を上げることができるようになります。
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