コロナ問題で気になる「鉄道の換気」の秘密 今こそ観光列車に乗りたいワケ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
鉄道事業者の新型コロナウイルス対策は「通勤電車での感染予防」と「減便」の2つ。通勤電車の換気のための「窓開け」にも歴史がある。一方、通勤電車とは違って、特急列車を運休するのは乗客の減少に対応するためで、集団感染の危険が高いからではない。
電車の「窓開け」の歴史
そこに加えて「窓開け」である。最近の通勤電車は窓が開くのか、と気づいた方も多いだろう。空調管理が整っているから、電車の窓を開ける機会は少なかった。
冷房が搭載されていない時代、電車の窓は開いて当たり前だった。しかし、冷房装置が整うと、むしろ窓を開けないで室温を維持するようになった。それでも春や秋は窓を開けて心地よい風を楽しめた。
ところが、温度管理ができるエアコンを搭載し、紫外線カットガラスで夏場の室温上昇も和らげられるようになると、「窓は開けないほうがいい」となった。窓を開ければ虫が入る。花粉症の人には花粉の舞い込みも気になる。逆に、軽いモノが車内から外へ飛ばされる。窓から顔や手や肘を出すという危険も回避できる。窓を開けるほうがリスクだった。こうして、窓が開く車両は減り、駅弁は窓越しに買えなくなり、駅弁の立ち売りは消え、駅弁業界は困った……は余談だ。これはこれで深刻だけども。
「窓が開かない」は悪いことばかりではない。開閉機構が要らないため、窓を大きくできるようになった。古い通勤電車は桟が多く窓ガラスは小さかった。開かない窓は大きく、桟がない。とても開放感があり、混雑した車内で心理的な窮屈を和らげた。
窓開けの転機は2005年8月だった。真夏の京浜東北線で停電事故が発生し、大森〜蒲田間で電車が立ち往生した。空調のない密閉空間で、車両の端の窓は開けられたが知る人は少なく、隣の車両へ行く通路の上に非常換気口があったけれども、車掌はそこを開けようにも満員でたどり着けない。蒸し風呂となった車内で乗客の体調は悪化。苦肉の策として扉をこじ開け、線路上へ脱出する人が現れた。これは同情するけれども、線路に人が入ってしまうと復旧がさらに遅れる。停電が解消しても職員が徒歩で線路上に人がいないことを確認する必要があるからだ。立ち往生時間は延び、さらに乗客の体調は悪化していく。
この事故を契機に、新型車両は開く窓を増やし、既存車両も大型窓の一部を開閉するための改造工事を実施した。通勤電車で、タテに黒い桟がある大型窓は開く。桟が目障りだな、残念だな、と思うけれども、大型窓全体を手動で開閉する仕組みは困難なのだそうだ。ひとまず「黒い桟の大型窓は開く」と覚えておこう。
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