新型コロナで増える「パワハラ」 “悲劇の温床”を放置する経営トップの責任:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)
新型コロナ問題でパワハラが増えるのではないかという懸念が広がっている。人は環境によって被害者にも加害者にもなり得る。経営が厳しくなることは避けられないが、「人」を軽視すると、弱い立場の人の命が奪われることになるのを忘れてはいけない。
フランスの企業で起きた、連続自殺
今から10年以上前、フランスである“事件”が起きました。
フランス最大手の電話会社「フランス・テレコム」で、わずか1年8カ月の間に24人もの社員が「自殺」するという衝撃的な事件が発覚したのです(未遂者も13人以上いるとされ、中には50人とする報告もある)。
しかも、自殺者の大半が職場で命を絶ち、23人目の“被害者”となった社員は、自殺直前に父親に「今夜オフィスで命を断つつもり。もちろん上司には言ってない」というメールを送信していました。
実はテレコムの事件が起こる2年前の07年頃から、フランスでは働く人が自殺する事件が起きていたのです。
自動車メーカーの「ルノー」では4カ月間に3人が自殺。カルロス・ゴーン氏がルノー本体のCEOに復帰した時期と重なったことから、「ゴーンは日本の『過労自殺』という経営手法までフランスに持ち帰ったのか」と揶揄(やゆ)されたほどでした。また、08年にはフランスの銀行で12人の従業員が自殺し、その翌年に起きたのが前述のテレコム事件です。
度重なる連続自殺の背景には、共通して、上司からの仕事のプレッシャーや過大な要求、上司や同僚からのいじめや暴力が存在していました。実際、命を絶った社員の家族の多くがそういった状況を目撃していましたし、ルノーの社員が残したメモには「会社が求める仕事のペースに耐えられない」と書かれていました。
夫を失った妻は「毎晩、書類を自宅に持ち帰り、夜中も仕事をしていた」とサービス残業が常態化していたことを告白するなど、ゴーン氏の経営手法は問題視されたのです。
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