freeeを受け入れられないベテランたち 成功事例と失敗事例:本当に効率を上げるためのSaaS(4/4 ページ)
導入後にバックオフィスの担当者による賛否が真っ二つに分かれるのが会計freeeの特徴だ。freee導入によって大幅にバックオフィスが効率化された会社もあれば、逆に全く使いこなせずに現場が混乱し、結局従来の会計ソフトに戻してしまった会社もある。成功と失敗を分けたのは何だったのか?
SaaS導入成功のためのポイント
B社のような日本企業は決して珍しくない。非効率で膨大な事務処理を、派遣社員などの非正規労働者でなんとか回している企業も多い。これまでもそのやり方でやってきたため、SaaS導入の際もこれまでのやり方を踏襲しようとして失敗してしまう。
SaaSはベストプラクティスで運用することを前提に作られているため、自社独自のやり方に執着すればするほど、導入による効果は遠のいていく。
では、どうすればSaaS導入を成功させることができるのだろうか。ポイントは3つある。まずは、トップ(経営層)による強いコミットメントと情報発信だ。これまでのやり方を大きく変えるということは現場にとっては当然に痛みを伴う。
導入の過程で現場からは反対意見も出たり、個別のカスタマイズについての要望なども出たりするだろう。それらに対してトップが毅然とした態度で「これまでのやり方は踏襲しない」「SaaSに合わせて最適化したやり方を構築する」という強いメッセージを発信し続けなければいけない。
情報システム部門が主導するのではなく、運用プロセスをゼロから再構築するトップダウンの全社プロジェクトとして取り組む覚悟が必要だ。
次に、最初から完璧にしようとせず、導入後も短いスパンで改善サイクルを回し続けることだ。
そのためには、中長期を見据えて効果を出していくという目線が必要になる。導入直後はこれまでと運用が大きく変わるため、現場では手戻りが発生したり、慣れない作業を負担に感じたりすることも多い。
導入前には想定しなかったことも多く発生し、それらに対応する必要も出てくる。しかしそれに耐え、半年、1年と運用を続けていくと、徐々に効果が出てくる。導入することが目的ではなく、SaaSをきちんと活用して効率化することが目的なので、導入後も継続して改善し続けることが重要である。
最後に、既存の運用ルールや仕組みを大幅に見直すことを厭(いと)わないことだ。システムが変わるのだから、ルールも変わって当然だと思われるが、多くの組織ではルールを変えずにシステムだけを変えようとしてしまう。
この問題については、「ザ・ゴール」の続編である「チェンジ・ザ・ルール!」の中でも20年前から指摘されている。SaaSを含めたテクノロジーは魔法の杖(つえ)ではない。導入するだけで社内の運用が効率化されるというのは幻想だ。システム導入と同時にルールの見直しもしっかり行わなければ、効果は限定的になるだろう。
SaaSを活用してバックオフィスを大きく変えることで業務を効率化させるのか、これまでのやり方にこだわりSaaSによる効率化の恩恵を受けられないままでいるのか。これを左右するのはトップが主導できるかにかかっている。
ボトムアップから大きな変化を起こすのはかなり難しい。トップがSaaSを導入することに満足することなく、社内のルール変更までコミットした企業はSaaS導入に成功している。SaaSの機能ももちろん重要だが、それを生かすも殺すも組織マネジメントであることを忘れてはいけない。
次回は、多くの一般社員にも馴(な)染みのある、経費精算業務におけるSaaS導入について取り上げる。
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