「コロナ手当」を美談で済ませず見直すべき、非正規雇用の“当たり前”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
新型コロナウイルスによって、医療や小売、物流などで働くエッセンシャルワーカーが理不尽な状況に陥っている。流通各社が従業員に一時金を出す動きが報じられているが、そもそも「非正規=低賃金でいいのか」という議論も進めるべきだ。当たり前を疑うことが求められている。
「緊急事態宣言」が東京など7都府県に出されてから2週間以上が過ぎました。政府は自粛効果の検証と追加措置の検討を進め、5月6日までの宣言の期間を延長するか否かを来週から始まる大型連休期間中に判断するとしました。
一足早くロックダウンに入った海外の状況をみると、長期戦はやむを得ないことを誰もが感じているはずです。その一方で、わずかひと月前まであった当たり前の日常が消え去り、新たにスタートした日常の中で、さまざまな感情が社会にうごめいています。
先日、厚生労働省クラスター対策班の専門家のTwitterアカウントで、先生たちが異例の呼びかけを行いました。
「【新型コロナウイルスに立ち向かうためのお願い】医療従事者の方々やその家族等に対する偏見や中傷が報告されている中で京都大学神代和明より皆様へのお願いです」という文章が付けられた動画は、医療従事者、保健所に勤める人、生活基盤を支えるエッセンシャルワーカーの人たちやその家族らに対する偏見や中傷が報告されていることを憂いたものでした。「同じ仲間として大変残念に思う。最前線で働く人たちを守らなければ新型コロナウイルスに立ち向かっていくのは難しい」としたのです。
医療従事者の方がホテルの宿泊や部屋の賃貸契約を断られたり、子供を保育所に預けることを拒否されたり、ご家族の方が仕事に来るなと言われたり、あるいは宅配ドライバーやスーパーで働く人たちに罵倒が浴びせられたり。どれもこれも信じ難い、怒りすらわいてくる事態です。
3月上旬に全国各地で“トイレットペーパー騒動”が頻発したとき、ドラッグストアの店員さんが「コロナより人間が怖い」とTwitterで悲鳴を上げ、大きな話題になりました。
「今まで優しかった人々が、殺気立って、とにかくイライラをぶつけてくる。『次の入荷はいつ?』『いつもないじゃない』『1個くらい取っておいてよ』と電話でも、対面でも何度も何度も聞かれ、その度に『すみません』『申し訳ありません』と頭を下げている。人が鬼に見える。正直ノイローゼ気味だ」と書かれ、多くの人たちが共感し、瞬く間にリツイートされました。
それなのに、ひと月以上がたった今、最前線で働く人たちに偏見のまなざしが注がれている。もっとも、「みんなで感謝しよう!」とライトアップしたり、皆で一斉に拍手をしたりという試みも増えてきています。
それでもやはり、幼稚で暴力的な言動に走る人は後を絶ちません。何より恐ろしいのは、それが決して「特別な人」だけではないってこと。恐怖にあおられればあおられるほど、人の生存欲求はかき立てられ、利己的な言動が引き出されます。自分でも驚くような大きな声を出してしまったり、後から考えると反省しきりの行動をしてしまったりする愚かさを、私たちは持ち合わせている。実に恐ろしいことです。
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