急増するコロナ倒産、本当に怖いのは「早期リタイア企業」の増加?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
経営の危機に直面していない企業であっても、今回の新型コロナを機に廃業を決定する「早期リタイア」企業が増加するのではないか。
新型コロナで「経営者の2025年問題」が早期到来?
新型コロナで景気後退が本格化してしまえば、大多数の企業における業績の低下見通しは避けられないだろう。ここで、仮に私たちが後継者のいない、70代の経営者であった場合を考えてみたい。この場合、向こう数年に渡って内部留保などを切り崩しつつ、景気回復の機会を待つよりも、今のうちに廃業して経営の成果を清算しておく「早期リタイア」を検討することも、合理的な経営判断といえるのではないだろうか。
平時、業績に関係なく高齢化に伴う廃業がなされていると考えれば、ここに新型コロナによる経済後退懸念が加わることで、中小企業の廃業スピードが一層加速してしまう可能性がある。
経営者の高齢化と、それに伴う廃業という問題は、いわゆる「2025年問題」や「2025年の崖」というテーマで検討されている論点の一つであった。25年には「団塊の世代」全員が75歳以上の後期高齢者となり、日本の超高齢社会がピークを迎える。
主に社会保障費や医療費の負担増加、働き手不足について語られることも多いが、後継者不足の企業が廃業する影響も決して小さくない。上記で取り上げた「DXレポート」では、後継者不足の企業が廃業することで、25年までに、累計で650万人の雇用機会と、22兆円のGDPが失われるという試算が公表されている。これを20年間、30年間といった、さらなる長期スパンでみた場合の経済的な影響は計りしれないだろう。
ある程度、対象の年齢が決まっている社会保障費等と比較して、経営者の判断次第でいかようにもなる中小企業の廃業は、「2025年」特有の事象ではない。このように考えると、ここまで検討した後継者不足による廃業の動きは、2025年を待たずに顕在化してくる可能性も否定できないといえる。
事業承継・M&Aのサポートが必要?
新型コロナで直接的に影響を被っている企業の救済が、第一優先であることに異論はない。しかし表面化しづらいものではあるが、日本の経済を支える中小企業群が、「早期リタイア」するインパクトを、先手で抑える施策も必要だろう。政府は、これまで以上に早いスピードで事業承継を促すサポート政策を実施するほか、スポットでの政策が求められてくる。
例えば、事業承継のために会社を売り渡すことに心理的抵抗感がある経営者に対して、経営資源の死蔵を防ぐという趣旨を明確にした、補助金を支給することも有効であろう。また、政府機関の事業承継ファンドに対する出資を拡大し、官民連携での事業承継円滑化の動きを一段と積極化させるのもいかがだろうか。
後継者の保証減免の拡充も、有効であると考えられる。後継者不足の大きな心理的・経済的障壁の一つが、「経営者保証」である。中小機構によれば、後継者未定の経営者127万人のうち、13.6%は後継者の候補が存在する。しかし、後継者候補は、個人に債務の保証が及ぶことを嫌った結果、事業承継が拒否されているのだ。政府系金融機関を中心に、キャッシュフローや業績推移の基準を満たした企業について経営者保証の減免を行い、「早期リタイア企業」の急増を抑えていくべきであると考える。
経営者保証の減免はリスクとなり得るが、業績としては順調な企業があえなく廃業してしまうことによる中長期的影響と比較考量すれば、後者が勝る事例も決して少なくないだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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