話題の「社員PC監視ツール」がテレワークを骨抜きにしてしまう、根本的理由:新連載・働き方の「今」を知る(3/4 ページ)
テレワークで従業員がサボらず仕事しているかを“監視”するシステムが話題になった。テレワークは本来「成果」を出すためなら「働く場所」を問わない制度のはず。こうしたシステムが出てくれば、テレワークが骨抜きになってしまい、生産性を高める「成果主義」が定着しない、と新田龍氏は指摘する。
監視はテレワークを骨抜きにする
その点テレワークなら、しっかりと成果さえ出していれば、サボっていようが何をしていようが問題ないはずだし、「効率よく仕事を終わらせて、空いた時間を自由に使おう!」という意識を持つことが生産性を高めることにもつながるはずだ。
にもかかわらず、今般報道されたように在席を強要し、「サボっているか否か」の監視のためにシステムや上司のリソースを割くような形では、従前の「オフィスに出社して9時〜17時の間働く」というスタイルと何ら変わらず、テレワークの意味がない。このような体たらくでは、日本企業の生産性など一生高まらないし、無駄なだらだら残業を排した「成果主義」は根付いていかないのではないか、と暗たんたる気分になってしまう。
そもそも「成果主義」とは、組織において業務の成果のみを評価して、報酬や人事を決めるシステムのことだ。入社年次と勤務年数が給与額に比例する「年功制」と異なり、年齢や学歴、勤務年数などを一切考慮せず、成果だけが評価基準であるため、「社員が自主的にスキルアップに努める」「モチベーション向上や、優秀な人材の確保につながる」といったメリットがアピールされ、1990年代後半に大手企業がこぞって導入した経緯がある。しかし、それら導入企業の多くは、2000年代に入ってから元の制度に戻したり、方向転換したりしており、なかなか日本企業には根付いていない。
例えば「三井物産」では、1999年に「完全に仕事の結果のみで給与査定する」という徹底した成果主義を導入した。しかし、もともと同社は「人の三井」とも呼ばれ、マニュアル化できないノウハウを先輩から後輩へ伝え、育てる文化が強みであった。そこに成果偏重の制度を導入したため、「ノウハウや人脈を伝授するのは損」といった風潮が生まれてしまい、同社の強みを急速に失わせてしまったようだ。2000年代初頭に「国後島ディーゼル発電施設不正入札事件」や、「ディーゼル微粒子除去装置(DPF)データ捏造事件」を引き起こす事態になってしまったのも、当時の同社における短期的な成果を重視する制度の影響が大きいといわれている。結果として同社は06年、チームワークや価値観の共有、人材育成といった定性的な行動を重視する制度に改めた。
関連記事
- ロイヤルリムジン「乗務員600人全員解雇」で広がる波紋 単なるブラック企業か、それとも経営者の「英断」か
新型コロナで各産業が打撃を受けている。そんな中で、話題となったタクシー会社の「乗務員全員解雇」。物議をかもすなかで、業績の見通しが立たない状況における経営者の「英断」とする声も挙がっている。本当に従業員の利益に資する決断なのか? ブラック企業に詳しい新田龍氏が解説する。 - 新型コロナ危機、ANAと日産の融資申し込みはどうなる? 政府は大企業、中小企業支援で今何をするべきなのか
新型コロナの経済影響が長期化・深刻化している。このまま続けば、大企業の破綻によって連鎖倒産が引き起こされる可能性もありえる。筆者の大関暁夫氏は、特に航空業界と自動車業界が危険だと指摘する。 - 中小企業が新型コロナ下を生き抜くカギは「借金嫌い」の克服 中には「起死回生」となる業界も?
新型コロナ対策でさまざまな支援制度が出てきている。その中には「破格の条件」ともいえる融資制度も。平時は「借金嫌い」でも、緊急時には借金をいとわず、とにかく生き抜くことを考えるべきだと小売・流通アナリストの中井彰人氏は指摘する。あらゆる業界が対応を迫られているが、中には「起死回生」のチャンスとなっている業界も? - 新型コロナ「国民1人当たり10万円給付」以外でも知っておきたい、万が一のときに使える各種支援制度とは
新型コロナで大きな影響を受ける企業活動。全国に「緊急事態宣言」が発出された今、身を守るために知っておくべき各種支援制度とは? 新田龍氏が解説する。 - 「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」 まさかの新説は本当か
アメリカやフランスの研究チームが、ちょっと信じられない研究結果を発表した。「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」というのだ。まさかの新説の裏に何があるのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.