SaaS導入で意識すべき、バックオフィスの3階建て構造:本当に効率を上げるためのSaaS(1/3 ページ)
今回は、SaaSを使ってバックオフィスを再構築する上で欠かせない業務設計について見ていく。その際のポイントは3つある。(1)全体最適の視点を持つ(2)自社にあったSaaSを選ぶ(3)会計処理を意識する だ。
2020年は、日本のバックオフィスの大きな転換点になる。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて、多くの人たちが在宅勤務を余儀なくされているからだ。オフィスに出勤することが前提になっていた業務プロセスは、在宅勤務になるとほとんど機能しなくなる。
筆者は、多くのバックオフィスの業務プロセスを見てきたが、アナログで属人化した業務プロセスに疲弊している企業は多い。しかし、業務プロセスの見直しは難易度も高く、かなりのリソースが必要なため、ズルズルと現状を維持してしまう。それがコロナショックという荒療治によって、ついに変わらざるを得なくなった。
国が緊急事態宣言を出す有事である。できるかどうかにかかわらず、多くの企業が在宅勤務で業務を回していく方法を模索せざるを得ない。SaaSの普及率も、この1年で飛躍的に伸びるだろう。今回は、SaaSを使ってバックオフィスを再構築する上で欠かせない業務設計について見ていく。
業務設計の3つのポイント
業務設計とは、最適な業務プロセスを実現するために、業務フローやオペレーションの見直しはもちろん、SaaSの活用なども含めて業務全体を再設計することだ。営業や経理などの業務ごとにバラバラに運用されてきたものを、全体を一連の業務として捉え直すことで、スムーズで無駄のない業務プロセスとデータの整合性が実現できる。
業務全体を一貫して管理するためのシステムの構築は、導入費用や保守費用も高く、これまでは中小企業で導入することは難しかった。SaaSが普及し、SaaS同士の連携もAPIによって容易に実現できるようになったことで、多額の投資をしなくても月額数万円でそれが実現可能になってきている。
SaaS導入においては、第1回でも説明した通り、「運用をシステムに合わせる」のが基本となる。自社の運用に合わせた要件を提示して、開発会社にシステムを作ってもらうのとは逆で、SaaSの機能や仕組みに合わせて、自社の運用を変えていかなければならない。導入時には業務フローの見直しが絶対条件なのだ。
そこで重要になるのが前述の業務設計だ。その際のポイントは3つある。
- 全体最適の視点を持つ
- 自社にあったSaaSを選ぶ
- 会計処理を意識する
まず、経理や営業などの部門を超えて、会社全体の業務の流れをきちんと把握することだ。営業部門が効率化したことによって、経理部門の手間が増えてしまっては元も子もない。部分最適ではなく、常に全体最適の視点を持つことが重要だ。
次に、SaaSそれぞれの機能や使いどころを把握することだ。単なる機能一覧ではなく、各SaaSがどういう思想で作られていて、どこに強みがあるのか、足りない機能はどうやって補うかなど、実務的な観点で理解しておかなければならない。自社に合ったSaaSを選ぶことが重要だ。
最後に、会計処理から逆算して考えることだ。企業の決算発表や税務申告も正しい会計処理を基盤としており、企業活動は最終的には必ず会計に反映される。営業管理や労務管理などの仕組みを構築する際に、会計にどう反映されるのかを意識しておかないと、経理部門での二度手間が生じてしまう。
この3つのポイントを、中小企業が内部人材だけで押さえるのはかなり難しい。そこで筆者は業務設計士を名乗り、業務設計に特化したコンサルティングサービスを提供している。SaaS導入支援をしているところは増えてきたが、業務設計からきちんと取り組んでくれるところはほとんどない。
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