テレワーク中にサボっていないか、日本企業が従業員を熱心に監視してしまう理由:働き方の「今」を知る(6/6 ページ)
テレワークで従業員がサボらず仕事しているかを“監視”するシステムが話題になった。テレワークは本来「成果」を出すためなら「働く場所」を問わない制度のはず。それなのに、なぜこうなってしまうのか。ブラック企業アナリストの新田龍氏は、海外のケースを引きながら、「サボり」に対する国内外の温度感の違いを指摘する。
「武田薬品工業」は1997年に全社導入
また「武田薬品工業」における成果主義は、経営陣と管理職から導入した。厳しい目標管理をおこない、報酬にも大きく差をつけることで、成果や改革への姿勢が積極的な人物を役員として登用。1997年には全社員を対象に本格導入された。
その際に重視されたのは「コンピテンシー」(行動特性)と「アカウンタビリティ」(成果責任)である。「職務知識」「問題解決」「仕事への取り組み姿勢」「チームワーク」などのコンピテンシーを評価項目とし、評価基準も公開。年功要素は一部残しつつ、職務等級ごとの賃金水準に基づいて個人の努力次第で昇給できる制度として整えられた。同時に、目標管理を実現するために評価者となる上司に対しても、「目標設定方法」「ゴールイメージ共有法」など、評価者研修を徹底的に実施。その後も改善が施され、現在は職種に応じた異なる賃金水準と評価基準を設ける職種別賃金体系となっている。
成果主義でも「プロセス」は重要
ご覧いただいた通り、「成果主義」と銘打っていても、短期的な業績数値のみが判断される形ではいろいろと齟齬(そご)が生まれるが、ある程度の質やプロセスも考慮した形であれば、社員のモチベーション向上やスキルアップという意図も明確となり、結果的に社員からも支持されることになるだろう。念のため、ここで言う「プロセス」とは、「頑張って仕事しました!」といった社員の自己評価ではなく、あらかじめ規定された「成果に結び付く行動目標」に落とし込まれた指標であることはご留意いただきたい。
組織の経営目標を基にした成果目標と、企業理念に即した行動目標をベースにした成果主義を実現できれば、定期的な評価を通じて目標と理念が会社と社員間に共有されることになる。それはすなわち組織のチームワークを強靭にしていくことにもつながるのだ。テレワーク導入のきっかけはあくまでウイルス感染拡大防止のためだったかもしれない。しかし、導入をきっかけに評価制度の在り方や仕事の進め方の見直しにつながれば、ポストコロナ、ウィズコロナの世界においても組織の発展につながっていくことだろう。
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