あなたの会社がZoomではなくTeamsを使っている理由:専門家のイロメガネ(3/3 ページ)
「Zoom飲み」といった言葉をSNSでも度々見かけるほど、ごく普通に使われる、ビデオ会議ツールのスタンダードになってきたZoom。ところがついに自社にもWeb会議ツールが導入されると思ったら、ZoomではなくSkypeやTeamsだった――。その理由には、マイクロソフトのビジネスモデル戦略があった。
SalesforceやSAPもロックイン戦略を採用
法人向けサービスでは、ロックインを目指したサービス設計が多数存在する。営業管理のクラウドサービスであるSalesforceもその一つである。
営業の活動状況をクラウドに一元管理するソフトウェアで、シェアNo.1を誇るセールスフォースは、13年にエグザクト・ターゲットというIT企業を買収した。
買収の目的は、エグザクト・ターゲットの保有するPardotというマーケティングオートメーションツール(以下MA)だ。MAとは、マーケティングや営業活動の中で手に入れた顧客のメールアドレス宛に、プロモーションのDMを自動配信するツールだ。営業管理ソフトのSalesforceと抜群に相性が良い。
単体のMAでは、Marketoなど他にも多くの人気サービスがある。しかし導入にあたってSalesforceとのシステム連携や今までの営業データの移し替えなどを手間に感じる顧客は、追加プランでPardotを契約する。関連したサービスを保有する企業を買収して、バンドルしてロックインしていく手法は、マイクロソフトと似た戦略だ。
ソフトウェアの大手SAPの提供するERPパッケージも、典型的なロックインだ。ERPとはエンタープライズ・リソース・プランニングの略称で、企業全体の業務最適化システムである。財務会計や管理会計だけでなく、販売管理や在庫・購買管理など多くの機能を有しており、それらが密に連携している。
そのため、一度導入するとシステム同士の連携がネックとなり、入れ替えが大変困難な状況になる。会計システムだけ他のサービスに入れ替えるといったことが、システム間のデータ連携の問題で難しくなるのだ。
意図的なロックインはユーザーに嫌われる
ロックインされた状態になることは、売り手にとってはメリットだが、ユーザーにとっては大きなデメリットである。利用しているサービス以外で革新的な新機能が発表され、導入することで業務効率化が見込まれるとしても、単体導入では単純なコストアップのため、導入ができないといったことはよくある。
また、SAPのようにシステム連携が密に行われており、ユーザー側が全体像を把握できていない場合、相見積もりができず、サービス提供側であるITベンダーの値上げ交渉に対抗できないこともある。
そのため、ユーザーはロックイン状態となる事を回避しようとする。あからさまなロックイン状態での値上げなどがあると、ユーザーの評価の低下にもつながる。当然、サービス提供者はユーザーに気づかれないようにロックインを目指すことが望ましい。
ビジネスにおいて、ロックイン状態を作ることは戦略として極めて正しい。新規参入プレイヤーは、既存の大手企業のロックイン状態をいかに打ち破るかが重要な課題となる。Zoomの快進撃に対して、マイクロソフトのロックイン戦略がどこまで有効であるか、今後のシェアの推移が楽しみである。
筆者:宇山裕(うやま ゆたか)
1988年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、ソフトバンクに約6年間勤務。通信インフラ・クラウドサービスの法人営業として大手ナショナルクライアントを担当し、顧客企業の働き方改革を推進。現在は外資系IT企業にてアカウントマネージャー職に従事しながら、記事の執筆活動を行っている。
企画協力:シェアーズカフェ・オンライン
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