コロナに苦しむ飲食店を前払いで応援する「さきめし」、そのリスクは?:専門家のイロメガネ(3/4 ページ)
コロナ禍で苦しむ飲食店に対して、料金を先払いして応援するサービス「さきめし」。苦しい時に助け合う、良い仕組みであると同時に、お金を先に払ってサービスは後で受けるという、過去にトラブルを繰り返してきた取引形態でもある。そしてこれは、資金決済法で問題となってきた、収納代行と適用除外の仕組みの良い例でもある。
「さきめし」が提供するのは飲食店の代理店業?
利用者は「さきめし」アプリを通してお金を払い、登録する飲食店は「さきめし」を通して代金を受領する流れとなる。
一見すると、これは銀行のように、利用者と飲食店の間の代金の送金を行っているようにも見える。このような取引を為替取引というが、為替取引は従来、銀行のみが行っていたところ、少額の資金(一回当たり100万円以下)の移動に限って銀行以外の業者の参入が認められている。
この送金の手続をビジネスとして行うことは気軽にできるものではなく、法律ではさまざまな厳しい規制を課している。これを規制しているのも先ほど挙げた資金決済法だ。
「さきめし」のビジネスは、このような法の規制を受けるようにも見えるが、「さきめし」は送金業務ではないので規制の対象ではないと説明する。説明によると、あくまで飲食店の代わりに飲食店利用のチケットを発行し、利用者から代金を代理でもらうという収納代行をやっているだけで、送金手続きを行っているわけではない、とのことだ。
このような収納代行の形をとるというやり方は、珍しいものではなく、広く利用されているモデルだ。「収納代行業にも資金決済法の規制にかけるべきだ」という議論は昔からあるが、今のところ規制の対象外とされている。
このように「さきめし」では、サービスを提供する側も参加する飲食店側も資金決済法の規制はかからない仕組みとされている。重い法律の規制がかからないようにシステムを設計することで、極力負担を減らして飲食店が資金を集める仕組みを考えているといえるだろう。
対価を先払いする方法はトラブルとなりやすい
このように、対価を先払いするシステムは実は珍しいことではなく、多くのサービスで見ることができる。例えばエステの契約がそうだ。
エステの契約では、サービスを受ける前に費用を一括で前払いすることが珍しくない。一方でエステサービスは自分の体質やエステティシャンとの相性などによって、思うような効果が得られないこともよくある。
途中でサービスを止めたいと思ったときに、前払いした費用がちゃんと戻ってくるか。エステの契約を巡っては筆者もたびたび相談を受けるが、なかには、あれこれ理由をつけて、返金に応じないというトラブルが少なくない。
このようなトラブルが多発することが背景となり、期間の長い契約の中には、利用者の不利にならないように、中途解約の清算ルールを法律で規定しているものがある。しかし規制のかかる業種はエステなどの一定の業種に限られていて、今の法律では規制は十分とはいえない。
「さきめし」のサービスを利用して、飲食店の支払いを先払いするという契約は、画期的であるものの、利用者を一定期間縛る契約であるがゆえ、対価を先払いする契約でこれまでトラブルとなってきた契約と、同じ問題をはらんでいるといえる。
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