ホンダの決算から見る未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/7 ページ)
ホンダの決算は、コロナ禍にあって、最終的な営業利益率のダウンが4.2%レベルで抑えられているので、酷いことにはなっていない。ただし、二輪事業の収益を保ちつつ、四輪事業の利益率を二輪並に引き上げていく必要がある。特に、武漢第3工場の稼働など、中国での生産設備の増強は続いており、中国マーケットへの傾倒をどうするかは課題だ。
ホンダの未来
さて、全体を振り返ろう。ホンダの場合、まずここ数年のトレンドとして四輪事業の採算性の落ち込みが大きい。ここはなんとかしなくてはならない。売り上げで67.0%を占める四輪事業が、利益で24.2%というのは不自然な形だ。逆に売り上げでは13.5%に過ぎない二輪事業で、利益の45.1%を叩(たた)き出してしまっている。この両事業の利益構造について、二輪事業の収益を保ちつつ、四輪事業の利益率を二輪並に引き上げていく必要がある。
ではどうして四輪事業の収益が悪いのだろうか。かつてホンダは急激な成長を企図して、生産力の拡大を優先した時代があった。ヒットモデルがたくさん生まれて、クルマの需要が伸びた結果として工場を建設するのではなく、最初に、生産キャパシティを引き上げ、「工場の稼働率を維持できるヒットモデルを作れ」と社内に檄(げき)を飛ばした。そんなに都合よくヒットモデルが生まれるはずもなく、短期間で多数のモデルを開発することによって、現場の疲弊が進み、結果的に品質問題が多発して、利益を落としてしまった。
昨今の自動車業界では、自社ラインアップ全体を見渡して、プラットフォーム戦略を立案し、プラットフォームやパワートレインの整理統合を進めつつ、車種のバリエーションから無駄を省いて、開発リソースを選択的に投入する動きが各社で先行している。にも関わらず、ホンダは結果的に逆に動いてしまった。ここで拡大した工場の稼働率が問題となって、ここしばらくの四輪事業の収益性を低下させている。
こうした設備の余剰を是正する決断が下された結果が、英国、トルコ、狭山、アルゼンチンなどの工場閉鎖である。22年くらいには設備余剰の調整が終わる。
しかしながら武漢第3工場の稼働など、中国での生産設備の増強は続いており、その結果マーケット的に中国偏重へ傾きつつある。しかし昨年からの米中貿易摩擦やコロナ問題など、中国はとかくカントリーリスクが高い。作れば作った分だけ売れるマーケットを前に、抑制的になるのが難しいのは分かるが、やはり冷静になってみると、これ以上の中国マーケットへの依存はリスクが高い。これは、数年前から筆者が繰り返し述べている問題である(「それでいいのかホンダ!?」参照)。
失敗を踏まえた反省の結果、遅まきながらプラットフォームの統合も進みつつある。次世代モデルから、効率的な共有化戦略商品のデビューが始まる。生産余力の調整に加えて、製品群のスリム化がようやく実行フェーズに入るのだ。
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