「シリコンバレーは中国に屈する」 Google元会長のエリック・シュミットが声高に唱える“危機感”:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
トランプ大統領が中国の脅威を煽っているが、Googleのエリック・シュミット元会長も、AIの分野で中国への危機感を主張する。中国は人権を無視したデータ収集や企業への巨大投資によって、スマートシティ構想を加速。日本も含めて、研究開発を進めないと追い付けなくなる。
本気で研究しないと、追い付けなくなる
そして、この手のスマートシティ構想については、最近日本でも話題になっている。内閣府は「AIやビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような都市設計」を標榜(ひょうぼう)し、「スーパーシティ」(スマートシティと同義)構想を盛り込んだ国家戦略特区法の改正案を国会で審議し、5月27日に可決・成立したからだ。だがトロントのように、プライバシーや個人監視への懸念が浮上しており、野党が中心になってSNSなどで「#スーパーシティ法案に抗議します」と批判する声も上がっている。
もちろん個人監視は断固反対すべきである。ただ一方で、プライバシー問題をあまりに重視しすぎると、AIのようなテクノロジー分野では、中国のように官民が協力し合う強権的な国には、これからの未来で勝つことができない。野党も、構想を丸ごと反対するのではなく、いかに個人のプライバシーを守るべきかの方策を議論する努力が必要だろう。さもないと、中国のようにデータを思うように収集してAIの機能を洗練させていく国には到底敵わず、将来的に屈辱を味わうことになりかねない。
新型コロナで遠隔テクノロジーなどを導入するハードルが下がりつつあり、5Gの導入も始まった今だからこそ、この問題について議論を深める必要がある。動きや決断の遅い日本でだらだらしていると、もはや先駆者には追い付けなくなる。
シュミットにいわせれば、今できるのは、国が投資をして本気で研究をすることしかない。ぜひ日米ともどもAI分野で期待したい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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