テクノロジーは全てを解決しない 人事担当者が知っておくべき「HR Tech」の実像:HR Techの現在地(2/5 ページ)
膨大な数のサービスが登場した「HR Tech」だが、企業の人事課題を何でも解決する“魔法の杖”として過信するのは禁物だ。熟慮せずに導入したことにより、何も解決せず、またかえって担当者の負担が増大してしまうケースも少なくない。本記事では、複数のあ企業で人事責任者を“複業”し、人事領域に詳しい高橋実氏が、人事担当者として知っておくべき「HR Techの実像」を解説する。
HR Techは“流行りもの”でもない
そもそも、HR Techは、最近出てきた“流行りもの”ではありません。
今や採用で当たり前に使われているリクナビ(当時は「RECRUIT BOOK on the Net」)が登場したのは1996年ですし、ERP(基幹統合)パッケージを活用した勤怠管理や給与支払い業務の効率化も、90年代ごろから根付いてきました。また、成果主義の潮流の中で90年代から2000年ごろにかけてはタレントマネジメントソリューションが台頭したように、ITは昔から活用されています。ちなみに現在は、組織エンゲージメントの方向に潮流がシフトしています。
では、なぜ今HR Techがこれだけ騒がれているのでしょうか。最も大きな要因は、ビジネス基盤がクラウドに移行しつつあることでしょう。クラウドソリューションは、「社内に閉じた業務」だった人事業務の可能性を大きく広げました。これまでの大手ベンダーによる大手企業中心に導入するシステムから、クラウドソリューションのサブスクリプション(継続課金)モデルに変化したことで、中小企業でも導入が進めやすくなってきているのです。
「80点のシステム」であることを意識しよう
しかし、クラウドソリューションも万能ではありません。筆者は、「80点のシステム」だと思っています。なぜなら、「クラウドという汎用的なプラットフォームを使い」「汎用型ソリューション(個社のカスタマイズを最小限に抑える)」により、開発工数を減らしてコストを抑えることで成り立っているビジネスモデルがほとんどだからです。
つまり、「個別の企業が抱えるニーズ」に合わせるのではなく、「汎用的なニーズ」に応えるソリューションとして設計されているのです。従って、HR Techをこれから導入する企業は、自社の本質的な課題を正しく捉えて、課題に対して最も有効なソリューションを「選ぶ“目”」がこれまで以上に求められるのです。
また、多くのHR Tech事業者は「人事のプロ」ではないことにも注意が必要でしょう。HR Tech事業者の方から「人事の現場で本当に必要なニーズが分からないから教えてほしい」というお話もよくいただきます。HR Tech事業者の多くは、ビジネスサイドの方が多く、人事のプロ経験者は非常に少ないのです。
このような特性を理解せず、導入検討時に、企業担当者がHR Tech事業者に「とりあえず、よろしく!」とボールを投げてしまうことがあまりに多いのが現実です。必要なのは、企業側でしっかりと要件定義をすることや、何が自社の問題で、何を解決したいのか、そして、導入にあたる運用面での影響などしっかりと検討することです。その結果、もし導入を検討していたソリューションが自社の課題解決に適合しない場合は、安易に導入するのでなく導入を見送る勇気も必要だと思います。
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