コロナ禍直撃のビール業界、特にアサヒに苦境が待ち受ける真の理由:“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)
新型コロナで苦境のビール業界。特にアサヒにその影響が直撃。同社本来の「強み」が仇になったと筆者は分析。
“スーパードライ戦略”、逆に足かせに
居酒屋での宴会がなくなった分、いわゆる家飲みに切り替えた人は多いはずなので、量販店やコンビニなど家庭用のチャネルを強化すればよいという話になるが、現実はそう簡単ではない。家飲みを前提にした製品と業務用の製品とでは、マーケティング戦略が根本的に違っているというのがその理由である。アサヒは日本企業としては珍しく、マーケティング主導で業績を伸ばしてきた企業だが、逆にこれが同社の足かせとなっている。
説明するまでもなく、アサヒは大ヒット商品「スーパードライ」で一気に業容を拡大したという歴史を持つ。かつて国内のビール市場はキリンの独壇場となっており、キリンからシェアを奪い返すのは不可能と言われていた。キリンは三菱グループということもあり、強固な営業ネットワークを持っており、営業力でキリンの牙城を突き崩すのは容易ではなかった。
だが、アサヒはスーパードライを前面に押し出し、1998年にとうとうキリンとのシェアを逆転させた。それまでのビール市場は基本的に営業力が決め手になると考えられていたが、90年代は時代がシフトするタイミングであり、市場の構造が大きく変わり始めていた。
アサヒは、従来のビールとは一線を画した味で製品開発を行い、広告宣伝を重視。瓶ではなく缶を中心にデザインするなど、新しい販路や顧客層を強く意識していた。つまり、スーパードライは完全にマーケティング主導の商品であり、これが市場の変化にうまくマッチしたことから不動の人気商品となった。
その後、市場がさらに変化し、発泡酒など価格の安い商品が普及してからも、アサヒはスーパードライを基軸にしたマーケティング戦略を継続した。高い知名度を生かして、居酒屋でスーパードライを飲む顧客がそのまま家庭での消費につながるよう、強く意識してきた。
家庭用の市場では、日本人の賃金低下から価格の安い発泡酒や新ジャンルの商品ばかりが売れるようになったが、アサヒだけは単価の高いビールを継続的に販売することに成功している。これはスーパードライを擁するアサヒならではの戦略だったが、これが今回のコロナ危機で逆回転を始めた可能性が指摘されている。
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