コロナ禍直撃のビール業界、特にアサヒに苦境が待ち受ける真の理由:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
新型コロナで苦境のビール業界。特にアサヒにその影響が直撃。同社本来の「強み」が仇になったと筆者は分析。
アサヒに“起死回生”のチャンスも
居酒屋は、大きな声で会話をしながらお酒や料理を楽しむ店舗であり、3密回避が大前提のポストコロナ社会では、業績の回復がもっとも遅れる業種の1つと言われている。もし居酒屋の市場が長期にわたって回復しなければ、業務用と家庭用を連携させるアサヒの戦略が根本的に崩れてしまう。
家庭用商品のブランディングをゼロから手掛けるには多くの労力とコストがかかるため、仮に今から戦略を転換しても、その成果が出てくるまでには時間がかかるだろう。
だが、アサヒにとって今回の事態が八方ふさがりなのかというとそうとは限らない。10月には酒税法の改正が予定されており、ビールと発泡酒は1リットルあたり20円の減税に、一方、新ジャンルは28円の増税になる。つまり今回の税率改定は、単価の高いビールに圧倒的に有利である。
これまでビール各社は顧客の購買力の低下を背景に、不本意ながら新ジャンルを拡大してきたという面がある。もし、来年以降の主戦場が再びビールに戻ってくるのだとすると、家庭用の市場においてアサヒが有利になることも考えられる。
減税を機に家庭用ビール市場で新しい製品展開ができれば、巻き返しのチャンスは十分にある。アサヒほどではないにせよ、各社とも居酒屋という大きなチャネルを失ったのは同じである。今回のコロナ危機によって、ビール各社は戦略の仕切り直しを迫られることになるだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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