「追加で8万円給付」の詐欺メール 背後に“外貨がほしい”北朝鮮の影:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
北朝鮮が新たな大規模サイバー攻撃を始めた。目的は、新型コロナで疲弊する国家財政を補う外貨の獲得。各国政府が給付する支援金をネタにした偽メールを大量に送付している。北朝鮮のサイバー攻撃能力は高い。手口を知り、冷静に対処することが必要だ。
援助が必要な人が被害に遭ってしまう重大さ
金正恩はサイバー部隊に対して、貴重な外貨を獲得してくる部隊であるとして、最上級の待遇をしている。北朝鮮政府は、全国の学校で科学や数学の成績、また分析能力などの分野で優秀な生徒を早い段階で吸い上げ、平壌市内にある中学や高校で学ばせる。その後、国立の金日成総合大学や金策工業総合大学などで2年ほどさらなる訓練を受けさせ、中国やロシアに有給で研修にも送り出す。北朝鮮の外から、実際に人民軍のサイバー攻撃作戦にも加わって経験を積ませる。
そんな北朝鮮が立ち上げた全世界的な金銭目的のサイバー攻撃だけに、だまされた個人や企業は、金銭的な損失だけでなく、北朝鮮の核兵器開発の資金源を提供することにもなる。国や国民のためにも、一人一人がこのサイバー攻撃の被害に遭わない対策が必要だと認識するべきだ。
このキャンペーンの動向を注意深く調査し、日本の攻撃情報などを周知する「JPCERT コーディネーションセンター」にも情報提供したサイバーセキュリティ企業、サイファーマのクマル・リテッシュCEOは、「金銭的な援助が必要な人たちが被害者になる可能性があると考えると、この攻撃キャンペーンは政治的また社会的な安定に重大な影響を及ぼします」と語る。
北朝鮮のみならず、中国もロシアも、それぞれの思惑をもってサイバー攻撃を行っている。新型コロナでいえば、中国はワクチンや治療薬を開発する医療機関にハッキングを仕掛け、米衛生当局へも業務の妨害工作を実施。加えて、つい最近EU(欧州連合)からも苦情が出ていたように、ウイルス拡大の責任から逃れようと偽情報をばらまいている。ロシアも偽情報を拡散させたり、米医療機関をハッキングしようとしているのが確認されている。
人々が不安を抱いている時こそ、彼らには絶好の攻撃チャンスとなる。そういうときこそ、メールなどに対して、冷静に対応する心構えが必要となる。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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