感染は自己責任? 「コロナ差別」を生み出した“とにかく自粛”の曖昧さ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/5 ページ)
新型コロナの感染が再び拡大する中、感染者や東京の人などに対する差別が報告されている。ここまで恐れてしまうのは、リスクコミュニケーションが機能していないから。データに基づく行動基準よりも「自粛」という言葉が前面に出ていた。リスク管理と差別を分けて考えるべきだ。
新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中、「東京差別」と呼ばれる現象が各地から報告されています。6月には、岩手県内の4つの市町村で、県外からの転入生に登校自粛を要請していたことが波紋を広げました。
報道によれば、小中学校が再開した4月上旬、教育委員会は「感染者が100人以上確認された都道府県からの転入生」に自宅で2週間待機するよう要請。緊急事態宣言が全国に拡大された16日には、対象を「県外からの転入生」に広げ、少なくとも20人の小中学生が対象になっていたそうです。
「保護者の同意も得られている。子どもの健康を第一に考えた結果」と、教育委員会の担当者は弁明しましたが、「いじめにつながる」「過剰反応」「差別を助長する」といった意見がSNSで広がり、炎上する騒ぎになりました。
また、7月に入ってからは、「都内のナンバーをつけてるからか車が傷つけられた」「東京のやつは絶対に県内にいれるな!」「親から絶対に帰省するな!(と言われた)」と、やられた、差別された、言われた、といった投稿が、SNSでも見られるようになりました。
日々更新される「新規感染者数」を見れば、東京だけ増えていますから、「うちにきてうつさないでくれよ!」という警戒心からなのでしょう。
しかし、地方に暮らす友人によれば、事態は東京で暮らす人たちが考える以上に深刻だ、と。コロナに感染すると、“村八分”にされてしまうというのです。
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